朝ごはん食べてからご主人さまは、ごく当たり前に服を着てる。
帰り支度ってやつ。
さみしい
けど仕方ない
服を着たご主人さまがベッドのふちに腰掛けてた。
わんわんはバッグからパンツ出してピラビラ振って見せた。
ほらほら、ゆうべはノ/ーパンだったけど穿いちゃうよ~みたいな(笑)
「あっ」
「なに」
「マーキングしてもらってない~」
「いいだろ、もう(笑)」
ご主人さま、もうお洋服着てる。
なんていうか…オンとオフのスイッチが切り替わったみたいに感じた。
パンツだけでマーキングしてもらいたがってるわんわんに、ちょっと苦笑い気味。
「あのねぇ、ここに…」
「なんだよ(笑)」
「…マーキング…キスマークキスマークここに~」
ちっちゃいおっぱいをグイッと張って、ここ、ここ、って指差しながらご主人さまにおねだり。
苦笑いしてるけど、両手が広がってるよ、ご主人さま。
(ほら、おいで)ってことでしょ、ご主人さま。
ご主人さまの両手がわんわんの腰を抱き寄せて、口唇が胸元に柔らかく貼り付いてくる。
ぎゅっと、両手でご主人さまの頭を抱え込んだ。
弾力のある髪が気持ちいい。
ご主人さまはお洋服を着てて
わんわんはほぼ裸んぼ
夜と朝のすき間、とか
夢と現実のすき間、とか
オンとオフのすき間、とか
わずかにしか存在しない時間のすき間に、スコンと堕ちたみたいだ。
わずかだから、すぐにすき間の次が来る。
朝とか現実とかオフとか。
それが判っているから切なくて苦しい。
わたしが服に手を通したら、おそらくすき間の時間は終了だ。
「いくか」
「うん」
ほら、完全に終了。
ホテルの自動ドアが開いて外の空気を吸ったら、ゆうべのこと思い出した。
「外の空気は気持ちいいね」って言ったら、ご主人さま笑ってた。
わんわんの運転で、ご主人さまを最寄駅まで送ってった。
「ありがとう」
「…うん」
「なに、その顔(笑)」
あは、きっとまたわたし、泣きそうな顔してるんだろう。
行かないで~、って顔に書いてあるに違いない。
「…気をつけてね」
「ああ(笑)」
ご主人さまが車を降りて歩いてく。
少し歩いたとこでこっちに振り向いた。
わんわんの車は1ミリも動いてない。
ご主人さまが手を振ってる。
わんわんも手を振った。
ご主人さま…きっとご主人さまが見えなくなるまで、わんわんの車は1ミリも動かないって気付いたんだろう。
何度も何度も、こっちを振り返って手を振ってくれてる。
わんわんはずっと手を振ってた。
いつご主人さま振り向いてもいいように、ずっと。
見えなくなるすぐ手前でこっちを見て、パタパタって手を振ってくれた。
もうご主人さまはみえない。