そういうの苦手なんだから【にー・おしまい】 | 夢 出会い 魔性

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「…帰ってよぅ…」

小さな独り言。

イヤなの。

ダメなの。

こーゆーの苦手なの。

心配しないでよ。

優しくされるの苦手なんだから。



また信号で停まった。

たまらなくなって、左側の窓を開けた。

冷たい空気が吹き込んでくる。

ご主人さまは右側の窓を開けた。


「なんだ?」

「帰ってー、曲がってよ~」

「ああ(笑)」


なーーんだ、そんなことか。
そんな感じのご主人さまの表情。

また青信号。

走り出すと、停まってる時とは比べものにならない勢いで冷たい空気が車内を満たす。

慌てて窓を閉めたけど…


…ご主人さまは…まだ並んで走ってる。


「帰ってよ、帰ってよもう!」


さっきより大きい独り言。
バンバンとハンドルを叩く音。

どれくらいご主人さまのおうちを行き過ぎてるんだろう。

こんなの…本意じゃないのに。

迷惑掛けたくなかったのに。

優しくされるの苦手なのに。

心のどこかで、嬉しいと感じてる自分が、すごくイヤだ。

ずっとずっと、並んでいたいの。

そんな本心がむくむく大きくなるのがツライ。


「…帰ってよ、ばか」


ウルンと涙ぐみそうになった時に、隣の車が急にスピードを上げた。

ハザードを点滅させてるのが見える。

ご主人さまは少しハザードランプを点滅させてから、左折のウィンカーを出した。


(曲がるんだ…)


ホッとした。

ホッとしたのと同じくらい寂しくなった。

スピードを上げた車は、私に(曲がるよ)のアプローチをしてから、
また少しスピードを落として、横に並んだ。

チラと隣を見ると、ご主人さまが手をひらひらさせてた。

私もひらひら振り返した。



次の信号で、ご主人さまの車は左方向に消えた。



ご主人さまの車が見えなくなった途端に、ポロンと涙が出た。




なんだか、一人ぽっちだなあ…って思いながら、雪の中を走り続けた。




おしまい