首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山噴火……過去にも起きた「恐怖の大連動」は、東京・日本をどう壊すのか。 

  もはや誰もが大地震から逃れられない時代、話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。  

弾道ミサイル発射の脅威

列島の地政学的特性も稀有であり、その脅威は国家と国民を脅かす。

日本列島の地政学的特性は、ユーラシア大陸を接点に大陸の「出口」になっており、国際安全保障上最重要な位置にある。国土面積は約37万8000平方キロに過ぎないが、排他的経済水域と領海を足した面積は447万平方キロ、海岸線は3万5000キロ超に及ぶ。  

世界6位の領域の脅威となるのは自然災害だけではない。

米国が秩序を乱していると指摘するロシアや中国、北朝鮮といった核保有国と向き合っているのだ。

先の大戦から78年を数える我が国を取り巻く安全保障環境が、かつてなく厳しい状況にある点は忘れてはならないだろう。 

 

2022年末、岸田文雄政権は外交・安全保障政策の根幹となる「国家安全保障戦略」など3文書を決定した。注目されたのは、敵の弾道ミサイル攻撃に対処するため発射基地を攻撃する「反撃能力」の保有を明記したことだ。

国家安全保障戦略は「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」と位置づけ、中国やロシア、北朝鮮の動向を警戒する。  

防衛の基本方針とされたのは「スタンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力」だった。

日本周辺では質・量ともにミサイル戦力が著しく増強され、ミサイル攻撃が現実の脅威となっていると指摘した上で「この脅威に対し、既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつある」と説明している。 

 

 低高度・高速・変則軌道という極超音速ミサイルや、大量の弾道ミサイルが撃ち込まれる「飽和攻撃」に対処するためには、迎撃による防衛だけでは対応が難しいことを意味する。政府は敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」を保有し、防衛費は2027年度に11兆円程度にまで増額されることになった。  

ここで「おや?」と思った人もいるかもしれない。

それは「これまで日本は弾道ミサイルを撃ち落とせる国ではなかったということか」という疑問のはずだ。

我が国は2004年度からミサイル防衛(MD)システムを整備し、(1)イージス艦が海上から迎撃ミサイルを発射し、撃ち落とす、(2)それで撃墜できない場合は地上の地対空誘導弾ペトリオットミサイル(PAC3)が迎撃するという二段構えで対処してきた。 

 

 日本に向けて複数の弾道ミサイルが発射される「飽和攻撃」についても、2016年1月に政府は「複数の弾道ミサイルが我が国に向け連射された場合であっても、対処することは可能である」との答弁書を決定している。  

だが、大量のミサイル攻撃に遭った場合にすべてを撃ち落とすことが困難なのは自明だ。

北朝鮮は2022年に70発近い弾道ミサイルを発射し、途中で向きを変える変則軌道のミサイル技術も持つ。先の国家安全保障戦略では中国やロシアを念頭に極超音速ミサイルに対処する必要性を強調しており、ミサイル防衛の限界を感じさせる。 

 

 陸上自衛隊で西部方面総監を務めた拓殖大学の番匠幸一郎客員教授は「北朝鮮は極超音速のマッハ7、マッハ10のミサイルを持っていると主張し、高速で向きを変えるため予測できなくなる。

また、ミサイルを海中から撃ったり、貨車やトラックに載せて撃ったりしており、すぐに撃てる固体燃料を使うなど技術も撃ち方も運用能力を高めている」と警鐘を鳴らす。  

 

着実に弾道ミサイル能力を進展させる北朝鮮やウクライナに侵攻するロシアに加え、中国は日本や在日米軍を攻撃できる弾道ミサイルを約2000発も保有しているとされる。

現実的に考えれば、すべてを迎撃するよりも米軍による「抑止」に期待するしかないのが実情だ。  政府が決定した反撃能力の保有について、番匠客員教授は「すべてのミサイルを撃ち落とすことは困難。敵の基地や中枢をたたく能力を持っていれば『やめておこう』という抑止効果がある。大変意義のあることだ」と指摘する。  

ただ、重要なことを忘れてはならない。それは反撃能力を保有したとしても憲法や国際法の範囲内で行使され、「先制攻撃」は許されないという点だ。つまり、専守防衛に変わりが

ないならば、迎撃できなかったミサイルが我が国に着弾するおそれがあることを意味する。

敵が日本のどこに攻撃目標を定めるのかはわからないが、国家の中枢機能がある首都が狙われる可能性は低くない。東京・市ヶ谷の防衛省などにはPAC3が配備され、ミサイル攻撃への警戒を高めるものの、たとえ「1発」でも首都が攻撃されれば、被害とともに大きな混乱が生じるだろう。  

 

2023年5月に北朝鮮が「衛星ロケット」を打ち上げると予告したように、開戦時に敵が事前に攻撃を通知することはありえない。半径数十キロの範囲を守ることができるPAC3は移動できるものの、フルに全国各地をカバーするだけの時間的余裕はない。

自衛隊と米軍は数十発程度には対応できたとしても、それ以上の飽和攻撃に遭えば深刻な事態を迎えることになる。 

 

 ウクライナは欧米の支援を受けて、首都・キーウをロシアのミサイル攻撃から必死に守る。ソーシャルメディアには首都上空で迎撃した様子が拡散されているが、撃墜したミサイルが落下し、市民が負傷するケースも後を絶たない。隣国から我が国にミサイルが発射されれば数分で飛来する。そのとき、あなたは身を守ることができるだろうか。