人的補償を巡り〝二重の苦しみ〟を味わう結末となってしまった。ソフトバンクの甲斐野央投手(27)が西武から国内フリーエージェント(FA)権を行使して加入した山川穂高内野手(32)の人的補償で移籍することが、11日に発表された。

 

日本代表も経験した剛腕の流出ショックだけでなく、レジェンド左腕・和田毅投手(42)のプロテクト漏れもこの日までに判明。今回のてん末は、球団内でも暗い影を落としている。 

 

  日の暮れたペイペイドームでメディアに対応した三笠GMは「苦渋の選択だった」と、胸中を打ち明けた。2018年ドラフト1位指名でソフトバンクに入団した甲斐野は1年目から65試合に登板、26ホールドをマークして侍ジャパンにも選出された。最速160キロの剛速球が最大の武器。

昨季は46試合に登板して、防御率2・53と安定感を見せた。

小久保新体制で臨む今季は〝勝利の方程式入り〟が期待されていた。  

甲斐野は球団を通じ「突然のことではありましたが、ホークスには本当にお世話になり感謝しかありません」と素直な思いを明かし「今回、僕を評価、指名してくれた西武球団にも感謝しています」と殊勝にコメントした。 

 

 今月5日に西武・渡辺GMが「人的補償」の要求を明言。その行方に注目が集まっていた。

「チームにとって、救援投手が大きな補強ポイントだった」(渡辺GM)。

 

補償制度の意義を考えれば、ソフトバンク側にとっては通算218発の大砲・山川獲得の代償と受け止めるしかなかった。 

 陽気で気配り屋の甲斐野の流出は言うまでもなくチームに暗い陰を落としたが、それ以上に球団内に動揺が走っている。プロ22年目を迎える「松坂世代」で、日米通算163勝左腕の和田がプロテクトリストから外れ、西武の獲得候補に挙がったことが判明。昨季は有原に次ぐ8勝を挙げ、小久保新監督が今季の開幕投手候補に指名した重要戦力だったからだ。 

 

 古株の球団関係者やOBの間からは「今回は特に慎重にならなければならなかった」という嘆きの声があった。

「山川の人的という特殊なケース。ファン心理を読めば、一番〝代償〟の大きい選手。今回はまず、ファン離れが加速する〝万が一〟を排除すべきだった。読みが甘かったのなら浅はか」。

 

昨年、不起訴となったが、山川が女性トラブルで世間を騒がしたのは事実。

山川の人的補償によって人格者で知られる功労者が流出するケースは、ファンを傷つけかねない

。ひいては山川への逆風が強まり、再起の道がさらに険しくなる。今回は、その危機が差し迫っていた。

 

身内からも〝悪手〟に映るプロテクト漏れだった。  3年連続リーグV逸で常勝再建が至上命令ゆえに、勝利への執念は増している。先進的な取り組みで球界に革命を起こそうという気概にも満ちている。ただ「盲目的になってはいけない」という警鐘が鳴らされているのも、疑いようのない事実だ。

 

 

プロテクト漏れが判明したソフトバンク・和田毅