ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動に世界的な注目が集まっている中、この映画を今ぜひ見ておきたかったので静岡・シネギャラリーに足を運んだ。詳細なあらすじは映画評論サイトに譲り、ここでは感想をつらつらと書いていきたい。
まず、本編の前に短編Ver.が上映されたがこれが本編をも凌ぐ印象深いものだった。
敢えて事前情報を仕入れず、短編が同時上映されることだけは知っていたがそれがかえって良かったようだ。
本編は更生の物語だが、短編の方は如何にして人間が差別主義者の道に進むのかが如実に示される。
ゴリゴリの差別主義者で公然と黒人にイチャモンをつけて暴行を働く父親と、その行き過ぎた行動には難色を示すものの、ヘイトグループの集まりにはノリノリで参加する母親に育てられると一体幼い子どもはどうなってしまうのか・・・。
20分のショートフィルムだが、非常に密度が濃くラストのインパクトは大きいものだった。
そして始まる本編。ちなみに短編とは独立しており物語としての関係性はない。
(自分は、母親役の女優が共通しているため、途中までリンクしているのかと逡巡していた・・・)
本編を見た感想としては終始主人公のブライオンに、心の底からの差別主義的思想・思考を感じ取ることはなかったのが意外だった。
主人公が黒人を日頃から蔑視し、何かあるたびに彼らを嘲るようなシーンが多いのか(例えるならばネットで見られる嫌韓のような感じ)
と思ったがそういう場面はほぼなかったように覚えている。短編のすぐに黒人に言いがかりをつけて仲間を呼びリンチする父親とはブライオンの本質は違うように思う。
個人的な考えだが、ブライオンがもしクレーガー夫妻(差別主義者グループのトップ)に育てられなかったら、ごく普通の一般の家庭に引き取られていたら差別主義者にはなっていなかっただろう。彼の生い立ちは悲惨なものだが、とはいえそれが移民のせいだとか黒人のせいだとかいう思考に至ったようには思えない。氏より育ちとはよく言ったものである。
とすると、ジェンキンス氏の活動は地道ではあるが非常に効果的と言える。
一人が更生することでその人間の家族、子どもがその後差別主義に染まることを防ぐことが出来るのだ。
ただ当然それには危険が伴う。作品内では数々の幸運が重なり幸いにも成功したが、それまでにブライオンもジェンキンス氏も命を落としていても不思議はなかった。命を賭しても救う活動を行う勇気と行動力に感服した次第である。
また、「メシが食えるぞ」とフラッと誘われてなんとなく差別主義者の仲間入りをした少年が、ついには躊躇いもなく人を殺す人間になってしまったのも衝撃的だった。現状に満足はできないが、何者にかなれるかと言えばそんなことはない。自分を変えたいけどどうしていいかわからない。そんな若者に差別主義は忍び寄る。日本の現状も似たようなものだろう。それがジープで乗り付けるスキンヘッドの男なのかネットの顔も見えない与論なのかの見た目の違いはあるが。
そういえば、数十年前にそういうカルト教団があったことをふと思い出した。
見所の多い映画だと思うので、DVDが発売されたらまたしっかりと見直したい。