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――――2週間後。
試験に撃沈した私は、今日から始まる補習に憂鬱な気持ちでいた。
「じゃあ、部長には伝えとくよー」
「うー……お願い、有希」
「まったく情けないなあ」
部活へ向かう二人を恨めしそうに見送って、大人しく鞄からノートを取り出すことにした。
里穂はあれから特に何事もなかったように、元気な姿に戻っていた。
泣いたのもあの時だけ、引きずる様子もなかった。
もしかしたら私たちに見せないだけで、人知れず涙は流しているのかもしれない……でもそれをおくびにも出さない彼女の強さが私には輝いて見えた。
でもそれよりも気になって仕方ないことがあった。
その張本人は窓際の前から2番目に座っていた。
部活の時間になっても外を眺めて動こうとしないその人は、多分私と同じ補習を受けるためにそこにいる。
それなのにまるでやる気のなさそうにボーっとしているだけで、なんの危機感もなさそうに見えた。
鈴森霧子。長い黒髪とすらりと伸びた足が目をひく、はっきり言って美人に属する人間だ。
そして私の見間違いじゃなければあの時保健室で女の人とキスをしていたクラスメイト。
さらに見られたことも、それが私であったことも知っているだろう彼女。
彼女の切れ長の目が、その奥に見える瞳が、確かに私を見ていた。
ありがたいのか不気味なのか、今日にいたるまで彼女は私に対して何も言ってこなかった。
私が意識して避けていたこともあったかもしれないが、彼女からはそんな素振りすら見せてきていない。
目が合った気がしただけかもしれないとも思い始める。
あるいは霧子ではなく他の誰かだったのかも、と。
ならばあの時保健室でキスをしていたのは誰だったのだろう。
聞えてきた吐息を苦しそう、と私は表現したが、キスをしていたのならきっとあれは……
普段と違い、生徒の数がまばらな教室では、余計に霧子の姿が目につく。
頬杖をついたままやる気のなさそうな彼女の姿を見ていて、また新しい疑問が湧いてくる。
私の知る鈴森霧子は、頭の良い生徒だったはずだ。
少なくとも補習を受けるところは見たことがないし、なんというか似つかわしくない。
私はともかく里穂や有希が悠々と超えた赤点のラインを彼女が下回る、そんなことあるだろうか。
そんなことを考えているうちに、補習はあっという間に終わってしまった。
うわの空で聞いていた補習になんの成果もあるはずはなく、ただ長時間座っていた疲労感だけが残った。
ノロノロと鞄にノートを詰めていた時、急に声を掛けられた。
「ちょっといいかな、早川千紗季さん」
その声の正体は他の誰でもない、鈴森霧子だった。
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