私は暗順応に関して、天体観測に関係するポイントは3つあると思います。



最大の問題点は感じる色、波長域の変化です。



明るいところで働く錐体の緑に感じるピークはV等級に近いものの、
暗いところで働く桿体細胞の波長域とは大きな差があります。

このことに言及している天文関係の書籍は吉田正太郎先生の「天体望遠鏡光学・屈折編」しか私は知りません。

吉田先生は暗順応した目に対応した色消しレンズのアイデアを書かれています。

ジョンソンの測光システムのV等級は人間の錐体の感度ピークに近いものですが、桿体の感度ピークとは全く異なるものです。

彗星の眼視観測では経験的にあまり赤くない恒星を選んで、比較星にしてきましたがこのような感度ピークをきちんと認識されている人は私の知る限りいません。



もうひとつのポイントは暗順応に要する時間です。



錐体でも暗順応は進行しますが、途中から稈体の暗順応に視覚の主役が以降します。
最近流行りの電視観望などしていたら、いつまで経っても、暗順応には至りません。





もうひとつのポイントは視覚の受容野の問題です。



稈体は高感度を得るために周囲の視細胞と刺激を共有化するのだそうです。

なんだかデジタルカメラや銀塩写真みたいですね。



超高感度と引き換えに解像度が著しく低下してしまう性質があります。

限界ギリギリの微光星が星雲状に見えてしまうのはこのためだと思います。

錐体による視覚は コダクロームで

稈体による視覚は103aOのようなものでしょうか。


よくゴンザレス氏は異様に明るい等級をはじき出すことで有名ですが、彼の視直径の目測は明らかに大きすぎると思います

彼は確かに彗星を見てはいるのだと思いますが、彗星の視直径の目測はおかしいと思います。
眼視観測では彗星と同じ大きさに恒星をぼかして光度を比較するために、大き過ぎる視直径の目測は 明る過ぎる光度を算出する原因になります。
そらし目で彗星などの微光天体を見ることは 昔から行われている常識ですが、この時には必ずしも正確な視直径が見れていないことをご存知ない眼視観測者の方があまりにも多いと思います。

2018年の星の広場の集まりで、この話をさせていただきました。



私からの改善提案は3つです。

・きちんと暗順応してから、彗星の眼視観測を行う。

・錐体を使わずに稈体で目測するために、彗星の明るさに応じた望遠鏡を選ぶ

あまり大きく望遠鏡で明るい彗星を目測すると、錐体まで働いてしまいます

・彗星の視直径を目測する場合、受容野の観察にならないように注意する

ゴンザレス等級にならないようにするということです



私たちの目が暗順応したかどうかの判定について、面白いアイデアを考えました。

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明るいところでは 青の方が暗く見えると思いますが、暗順応するとこれが逆転します。

青が明るく見えて、オレンジ色が暗く見えるようになります。

これが暗順応出来た状態です。

参考文献は 池田光男さんの
「眼は何を見ているか」です。

斎藤馨児先生から教えて頂いた本です。

プロの天文学者の方は誰も眼視観測なんてやらないと思います。

ジョンソンの測光システムが発表された当時、既に稈体細胞の感度ピークが青にシフトする現象は知られていましたが、一般的にはまだ広く知られていませんでした。

高校の生物の教科書に掲載されるのは80年代に入ってからのようです。

それが一般の天文アマチュアの方が 暗順応をご存知ない最大の理由だと思います。




         渡辺 信夫