遅まきながらDVDを借りたので
珍しく私がこの手の映画を観た。
観終わって、考えさせられることが
二つあった。
1996年に実際に起きた大量遭難
事故をもとに作られた映画であるが、
「商業登山」と言われる、ガイドが
作り上げたプランに沿って顧客が
登山するというスタイルが事故の
遠因になっていたと思われる。
ここから先はネタバレになります。
本意でない方はここでお引き取り
ください…
まず第一に考えさせられたことは、
「八甲田山死の彷徨」との共通点。
エベレストのほうはガイドが顧客に
振り回される形で、八甲田山のほうは
飛び入り参加の将軍に、現場を
預かる大尉がプランをめちゃめちゃに
されたために起こった悲劇。
強いリーダーシップで顧客或いは
部下の生命を守らなければならない
立場の者が、「ダメです」 「いやです」を
言えなかったために深みにはまっていく
様子は、まさに「八甲田山」の映画
そのものであった。
そして、二つ目に考えさせられたのは、
私のフライトにも起こりかねない状況。
あるガイドは、登頂のタイムリミットを
過ぎてしまったため、頂上まであと
600mのところで顧客に撤退を促す。
その顧客は体調に異変をきたしており、
通常でも登攀は厳しいと思われる
状況であった。
顧客はガイドにこれが人生最後の
登山だろうから、どうしても登りたいと
強く懇願する。実はこのガイドと顧客、
以前にもコンビを組んで、やはり登頂
目前で引き返した「前科」があった。
前回の負い目があったからなのか、
ガイドは顧客の我儘を聞きいれ、
登攀を続行。無事頂上に辿りついたが、
陽はすでに傾き…
後は推して知るべし… 遭難した。
観終わって感じたことは、「自分にも
起こりうる」状況や心理状態を投影
されてしまい、言葉を探せなかったこと。
天候不良で何回もキャンセルを
食らった顧客に、「今日が転勤前最後の
チャンスなんです」 なんて懇願されたり
したら、それを無下に断ることは、私には
かなりの大作業だ。しかし、時にはそれを
やらなければならないことを、改めて
この映画が魅せつけてくれた。
そして、「逆らえない力」の虚しさも。
社長から「この人も乗せて飛べ」と
言われ、「無理です」と言えれば、調布の
墜落事故は起こらなかっただろう。
だが、「いやです」の言葉と「解雇」を
天秤にかけたとき、それを言える機長も
なかなかいない。
なんか、まとまりのない文章になったが、
「引き返す」勇気、「No」と言える勇気…
一番大事だけれども、一番難しいと
いうことを見せつけられた作品だった。
はぁ~ 心が重い…