いつ降りるんだ? | PTD ~ Pilot To Dispatch ~

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ヒコーキオヤジのひとりごと
 空の話、ときどきタイのネタ…

 飛行訓練が進むと、単に空中機動
(失速からの回復や急旋回など)の
練習から、航法へと重点が移ってくる。
 
 本拠地の飛行場を離れて遠くの
目的地へ飛ぶ、クロスカントリーと
呼ばれる訓練が始まるわけだが、この
訓練の際にはナビゲーションログと
いうものを作成することになる。
 
 離陸して、巡航高度まで何分で
上がり、その地点からいくつかの経由
地点上空を飛び、ある地点から降下を
始めて目的地の飛行場へ着陸する
までを1枚の「設計図」にするわけだが、
ここで意外と訓練生がおろそかに
しがちなのが「ある地点」… すなわち
降下を開始する地点である。
 
 「TOD (Top of Descend)」とか「EOC
(End of Cruise)」と呼ばれるこの地点、
飛行機の性能表に出ていなければ、
航空地図にも載っていない。訓練生が
その日の飛行速度や高度、風を考慮
して、自分で決めなければならない。

 意外と簡単な算数なのだが、とかく
見落としがち、あるいは計算ができて
いても開始点を忘れて通り過ぎて
しまったりすることが多い。
 
 計算は3つのステップ。

 ① まず、どれだけの高さを降りなければ
   ならないかを算出する。
   単純に現在の高度から飛行場の標高を
   引けばよい。仮に巡航高度が6,500 ftで、
   飛行場の標高が500 ftだったら
   6,500-500=6,00 ftが降下するべき高度。
 
 ② 次にその高度を何分かけて降下するかを
   計算する。昇降計と呼ばれる、垂直方向の
   速度を計る計器を使い、毎分何フィートで
   降下するかを決定する。仮に500 ft/分で
   降りると決めた場合、降下に必要な時間は
   6,000÷500=12分となる。つまり、到着予定
   時刻の少なくとも12分前には降下を開始
   しなければならないことになる。

 ③ ではどこから降下を開始するのか?これは、
   現在の対地速度と降下時間の積で算出
   できる。無風状態だと仮定すれば、飛行機の
   速度計の読みで大体の対地速度が分かるので、
   単位系に気を付けて(速度計は時速、降下
   時間は分)計算をする。対地速度が100ノット
   だった場合、100×12÷60=20NM(海里)が
   降下に必要な距離となる。つまり、今回の
   仮定通りのフライトをした場合、目的地の約
   36.5km手前から降下を開始しなければ
   つんのめる(降りきれなくて進入復航する)
   羽目になる。
 
EOCの算出法

 高度が上がれば上がるほど、速度が上がれば
上がるほど、このEOCは飛行場から遠くなるので、
場合によっては飛行場が見えた時にはすでに
手遅れということも発生してくる。

 簡単なようで意外とできないEOCの計算。
普段のローカル訓練でもやらせるようにしては
いるのだが、なかなか臨機応変にはいかない
ようで、「いつ降りるんだ!」と私に怒鳴られる
訓練生も多い。まぁ、そうやって覚えていく
わけだが… 私がそうだったように…
 
 飛行機乗り、難しい方程式は要らないが、
簡単な算数の素養は必要だと思います。