どうだ! この晴天!
この暑さ!
出発地の我が飛行場の風は
わずか4ノット。目的地の飛行場も、
横風成分がやや強いが許容範囲内。
巡航高度も安定した南風!
これでクロスカントリー(野外航法
訓練)の許可を出さなかったのだから、
訓練生は憮然となるのも仕方がない。
私が許可を出さなかった理由は
「低高度の風」
訓練生が選んだ巡航高度の5,500
フィートは確かに問題はなかった。
しかし、目的地の地上近く、高度
1,000~2,000フィートのところに30ノット
以上の強風帯が表れていた。しかも
ほぼ真横からの横風。
降下~進入~着陸の過程で、チェック
リストを実行しながら速度を落とし、
フラップを下げて翼面積を増やし(=風の
餌食になりやすい)、横風30ノットの中で
きちんと操縦できるか?
ファイナル(最終進入)で滑走路手前の
小高い丘を越えてくる風に翻弄されても
機体の姿勢を保てるか?
今日の目的地が、かつて自分が強風で
一度死にかけたことのある空港だっただけに、
余計に慎重になった。訓練生の技量で
対地1,000フィートで風にひっくり返されたら、
回復の余地はない。
理性では納得していたが、感情では
全く納得していないオーラを漂わせながら
帰っていく訓練生を見て、(俺だってこの
天気で行かせてくれなきゃ怒るわな…)
と思った今日。
しかし、これが経験の差。教官が訓練生に
教えたい、「情報収集の厚み」、「行かない
勇気」、「常に安全な側に向く臆病さ」…
場所は異なるが、さっき、福島で翼を
もぎ取られたグライダーが墜落して搭乗員が
死亡したという一報が入ってきた。人様の
死を引き合いに出すのも気が引けるが、
目に見えないだけに、風はそれだけ恐ろしい。
心は痛むが、今日の「No Go」の判断は、
間違ってはいなかったと思っている。
いつか自分で飛ぶようになった時(きっと
すぐにそうなるとは思うが)、彼もわかって
くれるだろうと信じたい。