八尾空港墜落事故雑感 | PTD ~ Pilot To Dispatch ~

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ヒコーキオヤジのひとりごと
 空の話、ときどきタイのネタ…

またしても「灰色の運航形態」の事故。

 機体のオーナーであり、当該フライトの
機長であった人物は「機長席」にいなかった…

 自動車の世界だと、タンクローリーを
運転するには 大型免許が必要だし、
積む荷物によっては危険物取り扱いの
資格も要るだろう。 でも、普通乗用車に
分類される車であれば、軽自動車から
フェラーリまで 普通免許で運転できる。

 飛行機の世界も似たようなもので、
大型機を飛ばそうとすれば型式証明や
計器飛行証明などが必要になるが、
最大離陸重量が5.7トン以下の飛行機で
あれば 自家用(あるいは事業用)の
技能証明だけでどのような機種も飛ばす
ことができる。

 そうはいっても飛行機の場合は自動車
よりもシステムが複雑なことと、3次元の
挙動をするので、大抵の場合、乗りなれて
いない機種を運航する場合にはその機種に
慣熟した教官と同乗して チェックアウトと
呼ばれる習熟訓練を行うのが通例だ。
ちなみに航空機保険などの 観点では、
「当該機50時間」というのがひとつの慣熟の
目安となってるらしい。

 その点では、オーナー兼機長「だった」
はずの人物は十分にこの機体の特性を
理解していただろう。しかし、この人物が
他人に教育を施せる資格を 持っていたのか
どうかはわからない。

 航空機は、教習の利便性とバックアップの
両面から、左右どちらの席にも 操縦輪が
ついていて、それが連動しており、一応
どちらの席でも操舵できるように なっては
いるが、小型機の場合、飛行に必要な計器類の
多くが左席にのみ設置されている。 はたして
「機長」のはずだった人物は、右席から斜めに
計器類を覗きこみながら 操縦を行っていたの
だろうか? それとも本来は「機長席」たる
左席に座っていた人間が この機体を飛ばして
いたのだろうか?

 全員が死んでしまっているから真相は闇の
中だが、左席に座っていた人物も一応 技能
証明は持っていたようである。報道では40歳で
事業用の技能証明を取得するべく 訓練中
だったとか… 40を越えてなお職業パイロットを
目指すその姿勢は見上げたものだが、 この
フライトは訓練の一環だったのだろうか?
そして、プロを目指す者の 意識として、この
フライトは正しいフライトだったのであろうか?

 私が普段乗っているセスナを軽自動車だと
したら、事故機のムーニーはポルシェだ。
どちらも「普通免許」で運転できるが、全くの
別物だといってもいいだろう。 軽自動車ばかり
運転してきた人間が、いきなりポルシェに乗って、
いつもの調子で グヮンとアクセルを吹かしたら
どうなるか?

 ムーニーを飛ばしたことがないので機体の
特性はわからないが、ゴーアラウンド (着陸復航)の
ときにセスナのつもりでポンっとパワーを押し
込んだら一気に機首が ポップアップしてそのまま
失速したのかもしれない。あるいは普段自分が
飛ばしている 機体の速度に合わせてしまい、
ムーニーにとっては必要以下の低速にされて
しまったのかも しれない。カメラの映像を見ると、
石ころのようにほぼ垂直に落下しているので、
失速状態にあったことは間違いないだろう。

 原因究明は事故調の報告書を待つとしても、
去年の調布の墜落といい、今回の件といい、
機長が責任を持って乗客の統制にあたっていれば
防げていた事故であるような気が してならない。

 「わかりゃしないから」の現場判断が一番危ない。



  「そんなことしたら事故るから」ルールが
  あるのだと思うのだが…