30年前、大学生だった私は、
2週間ほど野宿で北海道を
放浪している最中に、晩ごはんを
食べに立ち寄った食堂で墜落の
一報を耳にした。
その10年後、私は操縦輪を
握る一人として日本の空を
飛び始めた。御巣鷹の峰は、
私がよく飛ぶ空域のすぐそば。
いつも決して忘れることのない、
空の安全への導標となっている。
今年は敗戦から70年、日航
123便の事件から30年。「あの頃」を
知る人はもうほとんどいない。
しかし、それは「忘れていい」という
免罪符ではない。
この節目の年に、宰相は日本を
再び戦争の当事者へと導こうと
している。どうか空の安全への思い
だけは戦争の記憶のようにリセット
されてしまうことのないように…
日中の激しい雨が止み、涼しい
風がそよぐ午後6時56分、今年も
西の山が見えるベランダから、
御巣鷹の方角に向かって手を合わせた。
今までと同じように、そして
これからも、無事に飛んで、
降りてきて「あたりまえ」の日々が
続けられるよう、毎回のフライトに
ご加護をいただけるよう、心を込めて。