裂け目に落ち込んだような、夢のような、現実の
ような不思議な夢だった。
シャワーを浴び朝食を済ますと、矢も盾も
たまらずホテルを飛び出し、赤バス25番に乗り、
ヤワラーへ。ホアランポーンの駅を過ぎて最初の
バス停で降りる。ヤワラーの街並みは相変わらず
煤け、熱気と排気ガスが漂い、小さな間口の
商店では春節のための飾りが売られていた。

細い路地に迷いもせずに飛びこむ。両側の
建物が迫り、昼間でも影の多い路地を何かに
急かされるように歩く。トンネルの出口のように
視界が開けたそこは7月22日広場。あの頃から
変わっていないロータリー。

「そこ」もそのままだった。
シャッターの降りたままの入り口。

中を覗き込むと、あの階段とエレベーター。
ふいに時計が逆回り…
周囲の音も一瞬聞こえなくなったような…
不思議な時間。
前を通るだけでは、ここが何だったのかを
知る人はもう少ないだろう。

「魔都」に惹かれ、魂を吸い取られた者達の
念が染みついているかのような廃墟。

でも、そこには確かに刻まれた時があった。
ほんの10数年前の話…
「ジュライ ホテル」
でも、それはもう 遠い 遠い 昔…