危機一髪 | PTD ~ Pilot To Dispatch ~

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ヒコーキオヤジのひとりごと
 空の話、ときどきタイのネタ…

 今日は隅田川花火の遊覧飛行の予定が入っていた。
昨夜から大気の状態が不安定になることはわかって
いたのだが、年に1度のチャンス、(あわよくば…)という
思いもあり、ぎりぎりまで出発の判断を遅らせた。
他の機長たちも思いは同じだったみたいで、午後5時に
オフィスに出頭するとすでに他の2人とも来ており、
天気の分析を始めていた。
 
 基本、「飛ぶときは全員が『Go』、キャンセルは全員
一緒」という、抜け駆け防止の申し合わせをしてから
(これは安全のため)、レーダー画像、高層天気図や
関東の核空港のMETAR,TAFなどをつき合わせながら
作戦会議を繰り広げ、果ては花火大会実行委員会の
サイトものぞいての最終判断。
 
 午後6時、全員一致で「Go」の決断。埼玉ではすでに
かなり降っていたのだが、それまでのレーダー動画で
発生した雷雲は全て北東方向に動いており、南からの
雲は多摩丘陵でせき止められていたので、都心に向けて
綺麗な回廊が出来上がっていたからだ。念のため気象
デスクに電話をすると、ほぼ同じような答え。
 
 格納庫へ向かい、3人で協力して機体引き出し、
飛行前点検を実施。そのとき、奇妙な光景を見た。
着陸してきた大型機がゴーアラウンドし、滑走路の上を
飛び抜けると、ティアドロップという旋回方式で滑走路の
反対側から降りてきたのだ。
 
 ??? 一同がその着陸を見た次の瞬間、風が一気に
変わった。5分も経たないうちに風が180/14から350/22G30
に一気に変わった。同時に肌寒いくらい風が吹き始めた。
 
 機体がグワングワンと大きく揺すられていた。身体が
勝手に動いたような反射でコックピットに上るとマスター
スイッチを入れてフラップを上げ、同時に操縦桿に
ロック棒を差し込んで昇降舵と補助翼を固定した。
そして出したばかりの気体を3人でまた格納庫へ…
 
 私とほもう一人の機長にはもうお客様がみえていたが、
やむなく欠航の決断。事情を説明している時に雨が降りだし、
一気に豪雨へ。本当にタッチの差だった。気づくと雲高も
15,000フィートから一気に1,600まで急激に悪化していた。
 
 15分で気温が10度もさがった。3人の機長と乗客はしばし
格納庫から涼しい風を浴びながらの雷見物。空からの
花火見物を楽しみにしていたお客様には申し訳なかったが、
もし離陸した後にこの急変が起きていたらここには戻れず、
厚木と羽田もほぼ同時に降り出したので(調布は日没で
閉鎖となるため)最悪緊急事態を宣言して成田まで
行かなければならなくなるところだった。
 
 危機一髪、「3本の矢」が下した「Go」の判断を、神様に
いとも簡単にへし折られた今宵だった。何度経験しても
夏の対流性気象現象は怖い。