第四章 彼らは抵抗しない


入手した映像データを分析する中で、UDAPは異星人たちの生態について、断片的な情報を積み上げていった。

彼らをとりあえず「ケレス人」と呼ぶことにした。

正確ではないが、他に適当な名がない。

 

ケレス人は、二足歩行。

体高は地球人より低く、皮膚は深い青緑色。

目が大きく、耳に相当する器官が退化している代わりに、頭頂部に微弱な電磁波送受信器官を持つ。

彼らが声を発する場面は、映像の中でほとんど見られなかった。

 

「コミュニケーションを精神波で行っているとすれば」

 

霧島が分析しながら言った。

 

「声帯に相当する器官が、退化するのは自然な流れかもしれません。使わない機能は消えていく」

「問題は」野村が言った。「なぜ、彼らは抵抗しないのか、だ」

 

それがUDAP全員の、最大の疑問だった。

 

映像の中で、強制移住させられるケレス人たちは、逃げない。

暴力的に押しつけられているわけでもないのに、ただ、静かに従っている。

 

「争いを知らない種族が、争いという概念を持っていないとしたら」万城目が言った。「抵抗という発想自体、彼らの思考回路に存在しないのかもしれない」

 

「それは」

 

霧島は、どこか遠くを見るような目をしていた。

 

「とても、悲しいことです」

 

静かさの中で誰かが呟いた。

しかしそれが誰だったか、後になって全員が思い出せなかった。

―――――――

追加入手した映像の中に、一カットだけ、異質なものがあった。

 

ケレス人の集落の外れ。

大きな岩の上に、一人の老いた個体が座っている。

体はケレス人の特徴を持ちながら、何か、他の個体とは違う静謐さをまとっている。

 

「長老だろうか」万城目が言った。

 

その個体は、カメラを見ていた。

いや、正確には違う。

 

「霧島、これを見てください」

 

野村が映像を止めた。

老いた個体の目が、カメラのレンズではなく、その後ろを見ている。

まるでカメラの向こう側、映像を受け取っている者たちを、直接見透かしているように。

 

霧島が画面に顔を近づけた瞬間、

 

「…っ」

 

彼女は小さく声を上げた。

 

「霧島?」

「今、聞こえました」

 

霧島は額に手を当てた。

 

「この映像を通して、何かが…彼女が…」

「彼女?」

「長老は、女性です。確かです」

 

霧島は目を閉じた。

室内が静まり返る。

 

しばらくして、霧島は目を開けた。

その目は、かすかに潤んでいた。

 

「…『あなた方は、自分たちが滅びかけているから、他者を食べ始めた』と」

「それが全てですか」

「はい」

 

霧島は頷いた。

 

「それだけを言って、繋がりが切れました」

 

野村は黙ったまま、窓の外を見た。

名古屋の空は、今日も橙色に濁っている。



第四章終わり