記憶の灯る部屋 第47部
透はその中で、
ゆきとの姿を見つめていた。
輪郭はもう完全に戻っている。
幼い頃のままの背丈。
細い腕。
小さな手。
ただ──
その手は、
透に向かって伸ばされたまま、
空中で止まっていた。
触れられそうで、
触れられない。
その距離は、
ほんの指先ひとつ分。
だが、
その“ひとつ分”が、
透の胸を深く締めつけていた。
透は震える声で呟いた。
「……ゆきと……
あの日……
君は……俺に手を伸ばしていたんだな……」
ゆきとは答えない。
だが、
その沈黙は拒絶ではなかった。
むしろ、
“そうだよ”
という静かな肯定が
透の胸に伝わってきた。
霧がふっと揺れた。
ゆきとの手が、
ほんのわずかに震えた。
その震えは、
まるで“届かなかったんだ”と告げるようだった。
透は胸に手を当てた。
──冬の夕暮れ。
──白い息。
──小さな影。
──伸ばされた手。
──涙。
──届かない距離。
断片が、
胸の奥でゆっくりとつながり始める。
透は息を呑んだ。
「……俺は……
君の手を……掴めなかったんだな……?」
ゆきとの光が、
かすかに震えた。
その震えは、
まるで“そうだよ”と告げるようだった。
透は目を閉じた。
胸の奥で、
封じられていた記憶が
ゆっくりと動き始める。
──あの日。
──夕暮れの色。
──冷たい風。
──ゆきとの声。
──伸ばされた手。
──届かない距離。
──そして──
別れ。
記憶の灯る部屋 第47部終わり