ハドソン川不時着、バックアップシステムが機長をサポート
先日の米US Airways1549便の不時着事故では、機長が見事な判断でニューヨークのハドソン川への着水を成功させたが、機長はその際、事故機に装備されている緊急時用の予備安全装置に助けられたという。事故機は両翼のエンジンがほぼ停止していたにもかかわらず、この装置のおかげで電気系統と油圧系統の機能を保てたようだ。
1月15日、1549便の機体が大きな鳥の群れらしきものにぶつかり、2基のエンジンが停止するも、チェズレイ・サレンバーガー機長は巧みに操縦を続け、900メートルほど滑空して速度をできる限り落とした上でハドソン川に着水。ニューヨークのラガーディア空港からノースカロライナ州シャーロットに向かっていた同機の乗員乗客155人は全員無事に救出された。航空安全の専門家らは、「航空史上に残る見事な判断と操縦だった」と同機長の行動を高く評価している。
通常、機体には発電機で電力を供給するが、今回はその発電機が機能しなくなっていた。発電機は航空機のエンジンで駆動するが、今回、事故機のエンジンに恐らく数羽のガンが吸い込まれた結果、エンジンが十分な動力を供給できなくなっていたからだ。だが事故機に搭載されていた米Honeywell International製の補助電源装置は機体の降下中も作動を続け、そのおかげで機長は機体の操縦系統をフルに利用できたようだ。米国家運輸安全委員会(NTSB)の広報担当者や、今回の事故の詳細に詳しい情報筋らはそう語っている。
またNTSBの広報担当者ピーター・クヌーソン氏が19日に明らかにしたところによると、事故原因の究明調査では、不時着水の前に非常動力装置のラムエアタービン(両翼のエンジンが停止した場合に油圧の確保に利用できる)も作動していたことが分かったという。タービンを作動させたのが乗務員なのか、あるいは緊急事態を受けて自動的に作動されたものなのかは不明。ラムエアタービンは、ある一定の速度になったところで機体下部から小型プロペラを展開し、油圧ポンプを駆動するほか、バックアップの電力を供給して、機体の操縦系統の稼働を助ける仕組みになっている。
US Airways Groupのパイロットが加盟する自主労働組合US Airline Pilots Associationの広報担当者は、事故の詳細に関するコメントを拒否している。
この事故調査に詳しいある人物によると、サレンバーガー機長が速度を落として飛行を続けながら機体の先端を上向きに保てたのは、一部には、事故機に搭載されている「フライ・バイ・ワイヤ」と呼ばれるシステムがコンピュータを介してジェット機の失速――つまり、機体が制御不能となり、墜落する事態――を回避してくれていたからだという。この人物によると、調査の予備的データは、こうしたコンピュータ制御の安全装置が不時着水の瞬間まで完全に機能していたことを示しているという。
U.S. Airline Pilots Associationで訓練担当の委員長を務めるゲーリー・フンメル氏は19日、「パイロットは両翼エンジンが停止した場合のシミュレータ訓練を行っている。ただし訓練ではもっと高い高度を想定している」と説明している。
同氏によると、US Airwaysのパイロットは不時着水のシミュレータ訓練は行っていないという。「不時着水の手順は学科訓練でカバーしている。不時着水は非常にまれなケースであり、めったに起こらないため、パイロットは学科でしか不時着水の訓練は行っていない。学科訓練はシミュレータ訓練と比べると実地性には欠ける」と同氏。同氏も事故機と同じエアバスA320型を操縦していたことがあるが、現在はUS Airwaysでボーイング767を操縦している。
US Airwaysの広報担当者によると、同社では両翼エンジンが停止した場合のシミュレータ訓練を行っているという。ただし、そうした訓練では一方のエンジンを点火できる想定になっているという。また同社は「不時着水はシミュレータで簡単に再現できるものではない」と語っている。
そこで航空安全の専門家らは、今回の事故の具体的なデータをシミュレータに組み込めば、パイロットは不時着水時の操縦系統の動きや滑空の特徴を1549便の成功例から学べるだろうと指摘している。「エアバス機を飛ばしている航空各社は恐らく、そうしたデータを訓練に組み込むよう検討することになるだろう」とNTSBの元メンバーであるジョン・ゴリア氏は語っている。
だが今回の不時着水は、パイロットがこうした緊急事態を切り抜ける上で、基本的な操縦スキルに加えてもう1つ重要になる要素を浮き彫りにしている。それは、たとえ通常の手順に反する決定だとしても、適切な行動計画を迅速に決断するということだ。サレンバーガー機長は機体が鳥にぶつかり両翼エンジンの推進力がほぼ完全に失われてから30秒もしないうちに、航空管制官の指示を無視してハドソン川へ不時着水するのが最善の選択肢であると判断した。
NTSBの元メンバーであるリチャード・ヒーリング氏によると、「この瞬時の判断のおかげで、不時着水まで2分以上の猶予が与えられたため、乗員は適切に準備を整えられた。機長の優れた判断のおかげで、乗員は個々の力を最大限に発揮し、パーフェクトな着水を果たすことができた」
調査委員は引き続きA320の保守記録の解析を続け、今回の事故と関連付けられるようなトラブルや修理の痕跡がないかを判断する。ただし、この件について調査担当者と話をしたというある人物によると、安全委員会や業界の専門家の間では、今のところ、「15日の飛行は鳥にぶつかるまでは通常通りに進んでおり、何ら異常な事態は発生していなかった」との見方が大勢を占めつつあるという。
