老化を遅らせ、健康寿命を延ばすには? | 常勝の空ブログ

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最新研究が示す注目の抗老化物質 世界の抗老化研究をリードする今井眞一郎・ワシントン大学教授に聞く(上)

 福島安紀=医療ライター

最先端の研究により、老化を遅らせ、高齢になっても元気に人生を楽しんで天寿を全うする「ピンピンコロリ」が実現できる時代が近づきつつある。米国では国家予算をかけて抗老化研究が行われており、その成果の一つとして研究者の間で注目を集めているのが、「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」という物質だ。このNMNの抗老化効果などについて研究する、抗老化研究の第一人者、米国ワシントン大学医学部発生生物学部門・医学部門の今井眞一郎教授に、抗老化研究の最前線や今すぐ実践できる老化制御法についてインタビューした。

老化を遅らせるとして注目を集めているNMN。一体どんな作用が報告されているのだろうか。写真はイメージ=(C)nejron-123RF

老化を遅らせるとして注目を集めているNMN。一体どんな作用が報告されているのだろうか。写真はイメージ=(C)nejron-123RF

 抗老化成分として研究者の間で注目されているNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)。これは、ビタミンB3からつくられ、ブロッコリーやアボカド、トマトなどにも微量に含まれる食品成分だ。NMNカプセルも販売され、米国や中国、日本の富裕層を中心に、老化を遅らせ、実年齢よりも身体機能を若く保つことが期待できるサプリメントとして人気を呼んでいるという。

 NMNブームに火がついたのは、米国ワシントン大学の今井眞一郎教授(神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター・老化機構研究部特任部長を兼任)の研究を中心に、その抗老化効果が明らかになってきたためだ。

 今井教授は、酵母から人間まで、体内にあるサーチュインという酵素が、活性化することで老化を遅らせたり寿命を延ばしたりする老化・寿命制御因子であることを発見したことで世界的に有名な抗老化研究の第一人者だ。2020年12月初旬、日本に一時帰国中の今井教授に、NMNの抗老化効果などについて聞いた。

NMNには老化を遅らせ認知機能や免疫機能の低下を抑える効果も

今、米国、そして日本でも、NMNという成分が、「寿命を延ばすかもしれない。特に、健康寿命の延伸の効果があるかもしれない」ということで、人気になりつつあります。その発端をつくったのが、今井先生の数々の研究です。今井先生のこれまでの研究で分かってきた、NMNの抗老化効果について教えてください。

今井 私たちワシントン大学のグループが、生後5カ月のマウスが17カ月齢になるまで1年間NMNを飲ませた研究では、さまざまな抗老化効果が見られました。5カ月齢というのは人間でいえば20代くらい、17カ月齢は60代くらいです。例えば、NMNを飲ませたマウスは、飲んでいないマウスよりたくさん食べるようになったにもかかわらず、体の代謝が上がって中年太りが抑えられました。ほかにも、骨格筋、肝臓、脂肪といったさまざまな場所で加齢に伴って起こる遺伝子の変化が抑えられ、身体活動量が上がり、血糖値を下げるインスリンの感受性、光を感じる目の網膜の機能が保たれ、免疫細胞の数が増えるなど、NMNには非常に多岐にわたる抗老化作用があることが分かっています。

 2011年に発表した、糖尿病のマウスにNMNを与えた研究では、血糖値がほぼ正常になり、症状を劇的に改善させる効果が見られました。

NMNの主な老化抑制効果

NMNの主な老化抑制効果

今井教授の研究では、NMNの抗老化効果として、体重増加や骨密度低下の抑制、インスリン感受性の改善などが見られた。出典:Cell Metab. 2016;24(6):795-806.

日本でも認知症患者の増加が問題になっています。NMNとアルツハイマー病との関係を調べた研究もあるようですね。

今井 他の研究機関でアルツハイマー病のモデルマウスにNMNを飲ませた研究では、記憶力や認知機能が回復し、アルツハイマー病の原因となる脳の海馬の細胞死が抑えられたと報告されています。NMNは血管の弾性を若い頃と同じように保つといった働きがあるなど、老化に伴う組織や臓器の機能低下、それから、老化に伴って起こる病気を改善させる効果も、世界各国の非常に多くの研究機関の論文で証明されています。 

老化を遅らせる方法は? 第一人者が語る「すぐ実践できる3つの法則」

世界の抗老化研究をリードする今井眞一郎・ワシントン大学教授に聞く(下)

 福島安紀=医療ライター

最新の抗老化研究によって、健康寿命を延ばし、何歳になっても心身ともに元気で社会貢献し続ける「プロダクティブ・エイジング」の実現が可能になりつつある。そのカギを握る一つが、私たちが生きていくうえで欠かせない体内物質であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を増加させ、長寿遺伝子からつくられる酵素サーチュインを活性化させること。NADを高めて老化を遅らせるために、今すぐできることはあるのだろうか。前回に続き、哺乳類の老化・寿命のメカニズムの研究と抗老化方法の確立を目指す、ワシントン大学医学部発生生物学部門・医学部門の今井眞一郎教授に聞く。

法則1 「運動」で老化制御に欠かせないNADを増やす

老化を遅らせるために、40~50代の人が今すぐ始めたほうがいいことはありますか。

老化制御に欠かせないNADを増やすには、軽~中程度の有酸素運動、筋トレがよい。写真はイメージ=(C)Darya Petrenko-123RF

老化制御に欠かせないNADを増やすには、軽~中程度の有酸素運動、筋トレがよい。写真はイメージ=(C)Darya Petrenko-123RF

今井 すぐに始めてほしいことの一つが、運動です。運動が老化を遅らせることは、複数の研究で科学的にも証明されている間違いのない事実です。

 アスリートのような非常に激しい運動をする必要はなく、ウォーキング、ジョギング、自転車こぎ、水泳などの軽~中程度の有酸素運動、筋トレが効果的です。

 運動をすると筋肉中のNAMPT(ニコチンアミド・ホスホリボシルトランスフェラーゼ)の量が上昇して、エネルギーの産生とサーチュイン(老化や寿命をコントロールする酵素)の活性化に不可欠なNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の量が増えます。NAMPTというのは、体の中でNADを合成するために必要な酵素です。

運動が体にいいことは分かっていても、忙しくて続けられない人も多いのですが、継続の秘訣はありますか。

今井 私は週2回、スポーツジムへ行き、筋トレをするようにしています。日本の多くのビジネスパーソンがそうであるように、私もなかなか運動をする時間が取れないのですが、スケジュールの中にあらかじめジムへ行く時間を組み込むようにしています。普段からエレベーターやエスカレーターではなく階段を使うなど、日常生活の中で意識的に体を動かすことも大切です。

法則2 「朝食」をがっつり食べて生体リズムを整える

今井 そして、もう一つ、NADを増やすために重要なのが、生体リズムを整えることです。私たちの体の中のNADの量は、サーカディアンリズム(概日リズム)と呼ばれる生体リズムに従って増えたり減ったりしています。マウスは夜行性なので、NADの量が昼間の明るいときに減り、夜は多くなります。人間は逆で昼にNADの量が増え、夜には減るようになっています。

 要するに、NADはエネルギーを生み出すうえで必須の物質なので、活動期に増えるようになっているのです。NADの値を昼間にしっかり高めてサーチュインを活性化させるためには、人間が本来持っている生体リズムを保ち、午前中にNADをしっかり増やすことが大切なのです。

 そのために有効なのが、1日の始まりのエネルギー源となる朝食を最もカロリーの高い食事にすることです。実は、私もかつては、夜遅く帰ってデザートまでたっぷり食べ、その2時間後には寝るような生活をしていました。2014年に生体リズムに関する学会に呼ばれて講演したときに、栄養が生体リズムに与える影響についての最新の知見を聞き、家内と相談して、それまで夜に食べていたような食事を朝にとるようになりました。