高校3年生の春、私は父の仕事の都合により転校することになった。
今、私は担任の花坂と紹介された若い男の先生と教室に向かっている。
そこは、小さな田舎の学校だった。
木造建築で歩くとときどきメシッという。
生徒数は一学年100人もいない、と先ほど花坂先生に教えて頂いた。
ずっと、都会にある私立のマンモス校に通っていた私にとって、そこは別世界のように感じられた。
春の風がそっと私のながい髪を揺らす。
廊下の窓からみえる景色は元から知っていたかのような暖かさを私に与えてくれた。
名前の知らない鳥たちの話声が聞こえてくる。
建物の陰に咲いているタンポポはとてもかわいらしかった。
そのどれもあの時、あの場所では感じられなかったものばかりだ。
焦り、競争、嫉妬、裏切り、孤独、迷い、そしてあの場所で私は自分を見失った。
そして、ある事件を犯してしまった。
人の群は途切れることはなく、雑音は鳴りやむことを知らない。
建物のあかりは真夜中でも休ませてもらえない。
じきに、充電不足なのもわからず、無理を続けたせいで、
心の充電はなくなってしまう。
人々の目はみんな生気を失っている。電車の窓から見えた私の目も・・・
頭を抱えてしゃがみこんでも、泣き叫んでも、誰も助けてはくれない。
みんな自分のことで精一杯なのだ。
生きる目的もないくせに、自分のことは過剰に大事にする。
相手の悪口はいとも簡単に言うくせに、自分がいわれるとひどく傷つく。
たちが悪いと、やり返し、泥沼へとはまっていく。
学校の中は成績も部活動も人気度も顔もすべて順位づけがさせており
日々、競争の中に私たちは閉じ込められている。
順位が下の物はいじめの標的となり、
順位が高すぎても嫉妬の標的となる。
愚かな人間たちはしょせんその程度のものなのだ。
このシステムはどうせ大人になってもなくなることはないのだろう。
きっと、どの国でも、どの時代でも。
それが、人間の文化なのだろう。
3年3組の教室の前で花坂先生は私の方を振り返り
「ここが今日から篠田さんの教室だよ。入ってきてっていったら入ってきてね。
と笑顔でいって教室の中に入っていった。
クラスの中はいくつかの話声が飛び通っていた。
先生が話しはじめると次第にその声は小さくなっていき、
私が、教室の扉を開けるとざわざわとした声がそこら中から聞こえてきた。