車を変えた。長年、MT車に乗っていたが、この度、AT車になった。

今までは、左足ではクラッチ、左手ではシフトノブを操作するのが当たり前であったため、車の発信時などついつい反射的に左手足がぴくっと動いてしまう。

体に染み付いた反射的な行動はなかなか洗い流せないものである。



数年前、僕にも後輩が出来始めた頃のこと。後輩Kが初めて大きな仕事を任された。僕はそのKのサポート役に任命された。

僕自身も誰かをサポートしたり指導したりする立場は初めてだった。初めて同士のコンビは試行錯誤を繰り返し順調に歩を進めていた。


Kはなかなか賢い後輩だった。僕の言ったことをすぐに理解し自分なりに咀嚼できる人だった。しかし、彼にはある重大な欠点があった。それは、自分に自信がないということ。


きちんとした考え方をもっているのに自信のなさからなのか、はっきりと自分の考えを主張できない。いつもモジモジしてしまう。


僕はKに
「お前には力がある。」
「最初から自信がある人なんてないんだ。」
「初めてなんだから失敗して当たり前、成功したら儲けもの。」
なんて、それらしいことを言って勇気づけようとした。しかし、なかなかKは変わらなかった。


そこで僕はある手法を思いつく。
それは「マインドコントロール」である。


自信をもてるように暗示をかけようと考えたのだ。そしてKにはいつも「自分はできる」と心の中で唱えさせるようにした。


彼だけに任せるのは心もとないので、僕が「お前は?」と言ったらKが「できる!」と答えるように調教した。

今思えば「お前はできる」と暗示をかけていたのは、僕自身にだったのかもしれない。僕も不安だったのだ。


仕事の合間なんかに僕が「お前は?」と言い
Kが「できる!」と答える光景は、初めのうちこそ、みんなに笑われていたが、1週間もするころには当たり前となっていた。


こうして僕とKとのやりとりは、3週間ほど続いた。効果があったのか否かはわかならないが、Kの大きな仕事は無事に終わった。僕は彼に120点をつけてあげた。もちろん自分自身にも。


仕事が終わり、Kの努力と成功をねぎらって飲み会を開くことにしていた。僕は、幹事をかってでた。彼のがんばりを一番知っていたのは、僕だからである。僕は、ちょっといい焼肉屋さんを予約していた。


みんながテーブルについたので飲み物のオーダーを聞いてまわった。Kにも聞こうと思い、彼を見ると、隣に陣取った上司に仕事の話をされていた。


「こんなところに来てまで・・・」と助け舟を出そうと思い、上司に「○○さんも生でいいですか?」と聞く。上司は「ああ、いいよ。」と答える。

Kにも「お前は?」と聞く。するとKは何の迷いもなく「できる!」と答えた。



グラスがそろい
Kの努力にではなく
Kの反射に乾杯をした。

今日は仕事で人に会うことになっていた。急いで食事を済ませ、午後一番の来客に備えた。

彼は時間通り現れた。秋元さんという方で、僕より少しだけ年上の紳士だった。

簡単な自己紹介のあと、お茶が出されると秋元さんは、お茶についてのちょっとしたエピソードを話した。人当たりのいい、ユーモアのある人だなと思った。そして、本題に入った。

本題に入ってすぐである。僕はあることに気が付いた。いや、気がついてしまった。

それは「彼の口元に白ゴマがついている。」という事実だった。


最初は目を疑った。それは白ゴマではなくて「できもの」か何かではないかと思った。というより、そうであってほしいと願った。しかし、その望みは簡単に打ち砕かれた。

「間違いない。絶対、白ゴマだ!」と確信に変わるまで時間はかからなかった。



僕がそうであるように、彼も昼食をとったばかりに違いない。


愛妻弁当にほうれん草の胡麻和えでも入っていたのだろうか。あるいは、とんかつ屋で白ゴマがたっぷりと入ったソースをかけ、おいしいヒレカツ定食でも食べてきたのだろうか。はたまた、忙しく時間がなかったため、コンビニで買ったアンパンを食べながら、車を走らせてきたのだろうか。

ああ、だめだ!

僕は白ゴマに思いを巡らせてばかりで、「本題」がまったく頭に入ってこない。

気になる・・・。見ないようにしようと思えば思うほど見てしまう。

もう僕の頭の中では、「秋元さん」は「口元さん」になってしまっている。


言おうかな・・・。と思う。しかし、言えない。


でも、後で本人が気づいて「なんで教えてくれなかったんだよ」って思われても嫌だな。教えてあげたほうが親切だよな。でも・・・。



だから、ひたすら祈る。何かの拍子にとれてくれと。口元に手を持って行ってくれと!舌をぺろりとやってくれと!!


でも祈りは通じない。


万事休す!


あとで気づいた口元さ・・・・秋元さんは、僕を不親切なやつと思うだろう。OH!MY GOD!!


話し終えると彼は出されたお茶を一口飲んだ。そして、そっと茶碗を置き「それでは。」と言った。


別れ際、僕は最高の笑顔だったに違いない。


最後にお茶を飲んだ時だろうか、彼の白ゴマはすっかりと姿を消していた。彼を見送りながら、頭を下げる僕は言いようのない安堵に包まれていた。

近所にそろばんと習字を教える塾がある。
昔から面倒見のよい先生が評判で
僕の知っている近所の小学生も数人通っている。
そこの塾は窓に「そ・ろ・ば・ん」「し・ゆ・う・じ」と
ひらがなが一文字ずつ書かれていて
遠くから見てもそこが何をするところなのか一目でわかる。

しかし、窓を開けると書かれた文字が他の文字の後に隠れてしまい
「そろばん」「しゅうじ」とは読めなくなってしまうのがたまにきずである。


先日、塾の側を通りかかると窓が開けられていた。

「そ」「ん」「し」の文字がそれぞれ別の文字の後ろに隠れ
窓には「ろば ゆうじ」と大きく書かれていた。


猫ひろしの仲間だろうか。
やっぱり短パンをはいているのだろうか。
新人だろうか。
「ろば」ってあたりがベテランっぽくもある。
決め台詞は「ニャー」ではなく・・・ん??


ここで、大きな疑問が僕の頭を支配した。
ロバは一体何て鳴くのだろう。

ネットで調べてみると「ヒヒーン」だとか「ヒーホー」だとか国によっても違うらしい。
「猫といえばニャー」みたいにはっきりと認知されているものはないようだ。

そこで、you tubeで検索してみる。



これが決め台詞となる「ろば ゆうじ」は絶対売れないだろう。

昨日は暑かった。今シーズン初めて半袖を着たがやっぱり暑かった。暑くなると炭酸飲料が飲みたくなる。

サイダーとかコーラとかをプハーってやるのが結構好きだ。コンビニに寄って三ツ矢サイダーを買った。格別にうまかった。生き返るって表現がぴったりだった。


僕の祖母も炭酸の好きな人だった。

身内をこんな風に言うのは気恥ずかしいが祖母は実に聡明な人だった。


7人いる自分の子どもの電話番号と住所はいくつになってもきちんと記憶していた。

20人近くいる孫の名前と誕生日を間違えることなく覚えていた。

植物のことにめっぽう詳しく「この花は何?」と聞くと必ず答えてくれた。

いつも穏やかでニコニコしていた祖母を僕は大好きだった。


お盆の頃、祖母の家に遊びに行くと台所の床下収納には三ツ矢サイダーが入っていた。

勝手口にはサイダーの空き瓶がいつも置いてあったように記憶している。

特に昨日のような暑い日にはサイダーをよく飲んで・・いや、「食べていた」。


繰り返し確認しておくが僕の祖母は実に聡明な人だった。

年をとっても決して自分を見失うような行動は何一つなかった。


食事時、祖母はおもむろに台所からサイダーを持ってくると、それをご飯(白米)にかけ、お茶漬けよろしくサラサラと食べていた。

祖母曰く、食欲のない日はこれに限る・・・らしい。


「おばあちゃん、今日はサイダー切らしちゃってないよ。」って日には「しょうがない」と言ってスプライトをかけていた。


あれから何十回と炭酸をプハーってやりたくなる暑い日を過ごしてきたが、いまだにチャレンジしたことはない。


今年こそは・・・って毎年思うが「知らない方が幸せ」ってこともあるのではないかって思ったりもする。

ベビーリーフを育てている。

春の陽気に誘われて、植物でも育ててみようという気持ちになった。
どうせ育てるなら収穫できるもののほうが、喜びも大きいだろうと思った。
しかし、手間のかかるものだと忙しさを言い訳に
途中で投げ出してしまわないかという不安もあった。
それでは面白くないので、手軽に育てられるものの方がいいと思った。
なんだかんだ悩みながら結局ベビーリーフに落ち着いた。


種を植えてから15日ほどたった。
毎日霧吹きで水を与えている。
日に日に成長していくようすが楽しみだ。
すくすく育っていくさまが愛らしくてたまらない。


僕の職場にHくんという後輩がいる。
彼は悪いやつではないがちょっとアレである。

まだ職場に来て1カ月もたたないうちに、彼のアレさ加減にみんなが気付き始めた。
残念ながら気づいていないのは彼だけだった。

そんな折、飲み会で彼は同期の女の子に
「どうやら俺は即戦力として期待されているようだ」と意気揚々と話したという。

それ以来、彼は「即戦力」というあだ名で呼ばれることとなる。

そんな彼であるが僕はあきらめずに育ててきた。
仕事も一から教えてきた。ベビーリーフのようにすくすくとはいかないものの、愛情と時間をかけて育ててきたやつが、それなりに成長していくようすを見るのは、やっぱり気持ちのいいものである。
皮肉たっぷりに「即戦力」って言われていた彼が
今や本当に「戦力」になりかけてきているのではないか!と希望的観測ではあるが、そう思っていた。

そんな折、職場で自分に足りないものを神様が一つだけ与えてくれると言ったら何がほしい?っていう話になった。

Kさんは身長と言った。Oさんは知識と言った。Tさんは計画性と言った。
僕なんか一つだけと言われても構わずいくつもお願いしてしまいそうだ。

で、Hくんはどうかというと、「う~ん。」と腕組みをした。

そりゃそうだろう。彼に欠けている部分はそりゃ~たくさんある。一つだけと言われても困るだろうな~と。

そんな僕の解釈をよそに彼は、「ないですね。」と言った。

そして、「強いて言えば、視力かな。僕両方0.03なんですよ。」
と、どうでもいい情報まで付け加えてくれた。

そう。いつまでたっても彼に絶対的に足りないものは謙虚さである。
残念ながら「即戦力」は今もなお「即戦力」のままであった。