コンビニで待ち合わせ。
こんなときくらいしか立ち読みしないからと思い
家電の雑誌を立ち読み。

「最近の家電はすごいなぁ~」なんて感心しつつ
ページをめくっていると、店内に携帯を手に話をしながら歩いてくる人がいた。

彼は、ドリンクのコーナーで電話しながら、飲み物を選んでいるようすだった。

突然彼が語気を強めた。

「だから、『てやんでい』と『がってん』だって!」



え?え?今何て言った??



思わず彼に目をやると、彼はスーツを着た30代前半くらいの男性だった。
その後、彼は何事もなかったかのように会話を続け、コーヒーを買ってコンビニを後にした。

残された僕は
「だから、『てやんでい』と『がってん』だって!」と言った彼の会話をつなぐべく頭をフル回転させた。


僕の想像した会話はこうだ。


彼と奥さんの会話」

彼と奥さんの間には、今月に入って待望の赤ちゃんが生まれた。結婚して10年、ようやく恵まれた子宝である。しかも、双子であったため喜びもひとしおであった。元気に生まれた双子の男の子は父親そっくりだった。

しかし、彼は仕事が忙しく、生まれたばかりの赤ちゃんの名前について、奥さんとゆっくり会話ができていなかった。そのことを申し訳ないと思っていたが、父親になった責任感から、今は仕事をおろそかにするわけにはいかなかった。

退院し、しばらくは実家で過ごすことになった奥さんは、母親になった幸せに満たされつつも彼とゆっくり話ができないことに、いらだちを感じていた。せめて、子どもの名前についてはゆっくりと話したいと思っていた。しびれを切らした奥さんは仕事中とわかっていながらも、携帯を手に取った。

彼はというと、営業の途中で喉が渇き、コーヒーでも飲もうとコンビニに寄った。その時、奥さんからの電話が鳴った。


奥さん 「今電話いい?」
彼   「うん」
奥さん 「子どもたちの名前考えてくれた?」
彼   「あぁ、考えてはいるけど、まだ仕事が忙しくて・・・。」
奥さん 「私たちの大切な子どもたちよ!真剣に考えてよ!」
彼   「だから考えてるって!」
奥さん 「うそよ。相談もしてくれないじゃない!」
彼   「だから、忙しんだって!」
奥さん 「じゃあ、どんな名前を考えてるの?言ってみてよ!」
彼   「今コンビニだから後でな。」
奥さん 「ほら、やっぱり考えてないんじゃない。」
彼   「考えてるよ。」
奥さん 「じゃあ、言ってよ!!」
彼   「・・・『てやんでい』と『がってん』だよ。
奥さん 「何?聞こえないわ!」
彼   「だから、『てやんでい』と『がってん』だって!」

奥さん 「・・・・。」

奥さん 「・・・男らしくて素敵な名前!」
彼   「そうだろ。君なら気に入ってくれると思っていたよ。」
奥さん 「あ、今『てやんでい』が笑ったわ。この子も気に入ったみたいよ。」
彼   「忙しくてなかなか話ができなかったけどこれからも『てやんでい』と『がってん』のために仲良くしような。」
奥さん 「うん。」

彼は、電話を切った。
車のルームミラーの横には、生まれたての双子を両手に抱えた奥さんの写真があった。彼はその写真をじっと見つめ、コーヒーを一口飲むと、「パパもうひとがんばりしてくるからな。」と写真につぶやき、車を走らせた。





ああ、なんて心温まる現場に立ち会えたのだろう。
『てやんでい』と『がってん』が健やかに成長することを、願ってやまない僕であった。

僕の叔父は寿司屋で働いていた。雇われ店長であったが、僕が遊びに行くとカウンターに座らせてくれて、何でも好きなものを食べていいと言ってくれた。

小学生の頃は大好きな玉子やかんぴょう巻きを存分にごちそうになった。中学生になると好きなネタはちょっと高価なものになっていったが、今度は「遠慮」が邪魔をしてガツガツ食べるとまではいかなかった。

小さな頃にカウンターに座り好きなだけ寿司を食べた記憶は、今でも鮮明であり、贅沢をさせてもらったなと感謝している。


叔父はちょっぴり変わった人でもあった。僕の知っている大人とはちょっぴり違うと子ども心に感じていた。


そんな叔父のお年玉はやっぱり変わっていた。豪華なぽち袋をもらい喜んで中を開けてみると、中には「世の中そんなにあまくない」と書かれた紙切れ一枚しか入っていなかったり、お年玉が宝くじだったりした。当時は兄貴と二人で「ケチ」と陰口をたたいたこともあったが、今思うと実に素敵なお年玉だったのだと思う。


僕が大きくなるにつれて叔父に会う機会がめっきり減った。子どもの僕には詳しいことは知らされなかったが、お金の問題やら何やらいろいろあったらしく、親戚はおろか兄弟とも距離を置くようになっていたようだ。


そんな叔父が亡くなってから8年が経つ。


毎年、お年玉をあげるこの時期になると叔父のことを思い出す。

年末年始は実家に帰ってゆっくり過ごした。


帰省するたびに決まって高校時代の友人が飲みに誘ってくれる。

友達とは本当にありがたいものである。


今回もいつものように誘われ飲みに行くことになった。

駅前の居酒屋で待ち合わせだったため

僕は実家近くの停留所からバスに乗っていくことにした。


青春期を過ごしたこの街のバスに

僕の思い出はたくさん詰まっていた。


中学時代、生まれて初めて定期券を持ち通学に利用したこと。

ちょっぴり大人になったようで妙に嬉しかったのを覚えている。

新しい友人たちとバスに乗って映画館に行ったこと。

バスの中で笑いすぎて腹が痛くなったのを覚えている。

好きな女の子とバスに乗ってスケートをしに行ったこと。

つり革につかまる手が緊張で汗びっしょりだったのを覚えている。


客がまばらであったことも手伝って、思いっきり感傷に浸っていた。

思い出の世界から、僕を現実に引き戻したのは

突然車内に鳴り響いた携帯電話の着信音だった。


その携帯の持ち主は

60歳前後の女性客だった。


その女性は「ひさしぶり~」とテンション高めで話しだした。


最近の若者は・・・なんてことをよく聞くが彼女はどう見ても若者に見えない。

情けないことである。


すると

バスの運転手さんが車内アナウンスで

「お客さん、他のお客さんの迷惑になりますのでかけなおしてください。すみませんね。」

と言った。


丁重ではあるが、毅然とした態度の運転手さんの態度になんだか嬉しい気持ちになった。


女性客は自分が注意を促されたと気付くと

「あ、すみません。」と謝り、電話の相手に

「ごめんごめん。かけ直すね。」と言って電話を切った。


当たり前のことではあるが

忠告を素直に聞き、すぐに改めた女性客の態度にも

なんだかちょっぴりすがすがしい気分になった。



が・・・・・・。



ほんの数秒後のことであった。


「あ、もしもし。ごめんね~かけ直してって言われたから。」と女性客の声がした。


何事もなかったかのように楽しそうに話す彼女の姿を見ていると

その嘘みたいな行動が本気であると認めざるをえなかった。



あまりに“素直”な彼女の行動に車内は凍りつき

運転手さんはもう一度車内アナウンスのマイクを手に取った。


僕はと言えば

飲み会の絶好のネタができたとガッツポーズをし

大笑いをしている友人の顔を思い浮かべて、ほくそ笑んでいた。


ありがとう、おばちゃん。

昨日のFくんの一件があり今日は出勤するのが少し楽しみだった。彼は本当に感想文を書いてくるのかワクワクしていた。

昼休みになると「Fくんアンソロジー見た?」という話になった。Fくんは「見ましたよ。まだ全部ではないんですけど・・・。」と答えた。

「そっかそっか。さすがに一晩では無理だよね。」とFくんを擁護した。

するとFくんが

「思った以上に面白いし、聞いたことある曲がたくさんあったので一気に見ちゃおうかって思ったんですけどね。」と言った。


当然みんなから「じゃあ、なんで見ちゃわなかったんだよ。」と突っ込みが入る。


Fくんは「いやぁ・・・。いろいろとありまして・・・。」みたいは歯切れの悪い返答をする。


当然みんなから

「なんだよ、その歯切れの悪さは。だからお前のメガネの色は・・・。」と突っ込まれる。


よくよく話を聞いてみると、3本目を見ようとケースを開くとそれまではDVDのレーベルが、リンゴの絵だったのに3本目は黒一色だったと言う。おかしいなと思いじっと見てると、「BOB DYLAN」と書いてあったそうだ。



・・・・そうです。僕です。


どうやら僕は「アンソロジー」のケースの中にボブ・ディランの「ノー・ディレクション・ホーム」を入れていたらしい・・・。だから見れなかったんだね。ごめんなさいFくん。


家に帰り

「ノー・ディレクション・ホーム」のケースを開く。すると今度は中に、ジミ・ヘンドリックスのDVDが・・・。

アンソロジーの3本目はどこに行ってしまったのだい??


もはやどこに何が入っているのかわからない状態。


<教訓>

日頃から、面倒くさくてもちゃんと元のケースに入れましょう。


すごく間接的ではあるが、これもジョン・レノンから学んだことになるのだろうか…。

ジョン・レノンが凶弾に倒れた。その出来事は30年前の今日起こった。僕は当時3歳。当然覚えているわけはないが、彼が亡くなってから10年が過ぎた頃に、彼の音楽を好きになる。


音楽好きが多い僕の職場での今日の話題は、ジョン・レノンの音楽と彼が与えた社会への影響についてだった。


それぞれがジョン・レノンの魅力を熱く語っている中、Fくんは「そうなんですか~」と素っ気ない相槌を連発していた。あまりにも興味のなさそうなFくんの反応に、ジョン・レノンを聞いて育ってきたおじさん&おばさんたちが怒りだした。

Fくんは20代前半の男性であるが、ジョン・レノンはおろかビートルズもろくに聞いたことがないという。


Fよ!そんなことでいいのか!

そんなことだから仕事も中途半端なんだ!

そんなことだから彼女にもふられるんだ!

そんなことだからメガネの色がちょっと変なんだ!


とか散々言われたあげくに、ビートルズアンソロジーを見て、感想文でも書いてこい!とからかわれていた。せっかくなので見てみたいとFくんが言うので、僕がDVDを貸すことにした。


Fくんは見た目はちょっといい加減そうに見えるが、変にまじめなところのある青年である。書くものを借りたくて「ちょっと鉛筆貸して?」と言うと「シャープペンしかないけどいいですか?」と言ってくれたり、出張の帰りに「ちょっとお茶飲んでいこうか?」と言うと「お茶よりコーヒーにしません?」とか真顔で言ってくれたりする。


Fくんは2時間ほど前に僕の家にDVDを取りに来た。変にまじめな彼だけに、DVDを遅くまで見てしまい、明日寝不足で出勤してきはしないかと、ちょっとだけ心配している。


つい10分ほど前に彼からメールが来た。

「面白いので、今晩のうちに見れるところまで見ます。」


案の定である。そしてメールは続く。


「感想文は原稿用紙がないので、レポート用紙でいいですか?」


・・・どっちゃでもええわ。