1学期の「昼休みミニトークライブ」ふり返り② | スクール・ダイバーシティ

スクール・ダイバーシティ

成蹊高校生徒会の1パートとして活動しています。あらゆる多様性に気づく繊細さ、すべての多様性を受け止める寛容さ、疎外や差別とは対極にあるこんな価値観を少しでも広く共有したいと思って活動しています。

 前回に続いて、この更新でも卒業生を招いてのミニトークライブの振り返りです。今回はオンライン、スクール・ダイバーシティ創設メンバーのひとりでもあるHさん(2013年卒、サステナビリティ専門コンサル会社)に登場してもらいました。昼休みを使った約35分間は会場に集まった15名ほどの生徒・卒業生・教員とともにトーク&質疑、その後30分ほどのアフターdunchでは、教員、卒業生と小さなグループでおしゃべり、という感じで、後半部分については報告ペーパーなどを通じて後日高校生たちとも共有、という流れでした。

 さて、トークライブです。

 あらためて振り返ると、10年前からダイバーシティな活動に首を突っ込み、今、ダイバーシティなことを仕事にしているHさんは、日本社会のダイバーシティ活動第一世代のひとりと言えそうです。だから、Hさんが感じたダイバーシティと社会の10年をスクール・ダイバーシティで共有できれば―ということで、Hさんとやり取りしつつ、「だいたいこんな感じでしゃべってください」的にお願いしたのが、次のようなコンテンツでした。

<Hさん(サステナビリティ専門コンサル) × スクール・ダイバーシティ>
0.はじめに―スクール・ダイバーシティ1期生
1.〈ダイバーシティ〉を仕事にしてみた―日本社会のダイバーシティ第一世代から見た10年
*津田塾大在学中の活動
*卒業後は日本航空で客室乗務員
*現在は「サスティナ・コンサル」―ってどんな仕事??
2.「制服フリーデー」へ! 文化祭トークライブへ!
*「企画案」&「アンケート案」
*文化祭トークライブテーマ

 昼休みのトークについては時間的に「0」「1」、とくに「1」が中心になりましたが、アフターでは「2」にからむ話もたくさんできたと思っています―というのは言い訳で、実は昼休みも大人たちがおもしろがってしゃべってしまって高校生たちの時間をあまり取れませんでした、すみません。その分、「0」「1」については、質問ペーパーとそれに対するHさんの回答もこの場で紹介することでそれなりに厚く、深くということにはなったんですけど…。とにかく、以下、トークライブ+αです。

0.はじめに―スクール・ダイバーシティ1期生(2013卒)
*スクール・ダイバーシティ立ち上げ当初は、みんなでダイバーシティな映画や本 を共有して、勉強会―みたいなことが中心。
*とにかくまだまだ「ダイバーシティ」という概念自体がぜんぜん知られてない状態でスタート。というか、はじめは名前もないグループ。何回目かのミーティングで誰ともなく出てきたのが「スクール・ダイバーシティ」だったような?(そのころ教職員研修で「虹色ダイバーシティ」の村木真紀さんにお話してもらったことがあって、それで「○○ダイバーシティ」っていうイメージが残っていたような気もします)。
*スタートのきっかけは、今もこの活動の担当教員であるK先生の高3世界史推薦系クラス。そこでK先生の「こんなことやってみたいんだけどどうかな?」的な声掛けに応えた5人の生徒とK先生で活動を始める。

 

 当事はヘイトスピーチが完全野放し状態、セクマイをネタにするような空気にも十分な歯止めがあるようには感じられなかったし、オタクについても市民権前夜、スクールカーストもようやくその言葉が広まり始めたくらいというタイミングだったと思います。で、そういういろいろにしっかりと対応するのだ—という宣言、「多様性と平等についての宣言」(ダイバーシティ宣言)を作り、それを生徒手帳に載せることが、当初の大きな目標でした。で、まだ載ってないです…。

 この活動、学校側からは、なんだか「危険思想グループ」みたいに思われていたふしがありました笑—というのは担当教員の実感ですが、Hさんの感触としては見守ってくれる教員もいたしそんなに悪くない反応だったのではということで、まあ、「遠巻き」にされていたというところでしょうか。今は学校がダイバーシティの存在や発想に慣れたという感じです。dunch常連の教員も3、4名はいるし、関心を持ってくれる教員はかなりいると思います。「近巻き」という感じでしょうか。

 当初の目的と生徒・教員全体への存在アピール的な声明がこのブログにあるので、それを見てもらえるとうれしいです。ここです。
https://ameblo.jp/sksd14/entry-11967594815.html
 基本的なスタンスは今も変わっていないと思います。この声明文は創設メンバーが知恵を絞って出来上がったものです。

1.「〈ダイバーシティ〉を仕事にしてみた―日本社会のダイバーシティ第一世代から見た10年」
(1)津田塾大在学中の活動
*NPO立ち上げ。「心理的安全を感じられる社会」を作りたい、そんな社会にしたいという思いがあった。で、セクシュアルマイノリティ理解のためのイベントを開催したり、そのために他のNPO法人とタイアップしたイベントを開催したり、高校での出張授業なども展開。
*「心理的安全を感じられる社会」を意識したイベントとして、例えば「ほめカフェ」を主催。なんとなくもやもやしてることをぜんぜん知らない人同士でしゃべり合ってみる空間の提供。知らない人とだからこそ話せることってたくさんあって、むしろ話しやすいかも。とにかく「しゃべる」「聞く」だけ。それだけなんだけど、そこには必ず相手の話を「受け容れる」空間がしっかりと漂っていて、最後にはみんながあるがままの自分を認めている状態を目指していた。けっこう人が集まる。
*簡単なワークペーパーを囲んで「なんとなくダイバーシティな空間」が構成されている感じナイス(参加したことがある担当教員)。
*「ほめカフェ」について。「それにしてもいったいどうやって人を集めたの? 人づてやFacebookということだったけど、どうしてちゃんと集まるんだろう?」という質問に対する回答はこんな感じ。
・振り返ればメンバーの社交性が高く、それぞれがいろいろなコミュニティ(各種学生団体、学生用ビジネススクールなど)に参加していて、そこで宣伝していた。つまり、社会的な課題に関心がある学生と繋がっていたし、その学生たちも社交的でSNSでの発信に抵抗がなく、イベント運営の大変さも知ってるのでシェアしてくれるし、参加してくれる。こういう流れがあったと思う。Facebookは社会人、NPO法人、実業家のといった人たちとの交流にもつながった。
 ・参加登録の際に常時連絡の取れる連絡先を入力してもらい、1週間前、(3日前)、前日、当日とリマインドを入れた。「ほめカフェ」は毎回おおよそ20人弱集めたと思う。イベントの規模によっては、メンバーごとに「声掛けノルマ」や役割分担を行ったりもした。


 この「ほめカフェ」運営についての質問は、大学院生の卒業生Iさんによるものです。Iさんは、修士論文のテーマとして「男性性研究」をイメージしています。そこではマジョリティ男性のあり方が重要な意味を持つわけですが、だから、Iさんは、そんなマジョリティ男性を集めて、もやもやをしゃべり合うような空間を作れないか、そしてその場で語られたことを分析の題材にできないだろうかと考えていて、そんなタイミングで「ほめカフェ」の話が出てきたわけです。Iさんからすると「ほめカフェ」が構成する空間は、願ってもないものだったと思います。たしかに、マジョリティ男性が集まって、みんなでもやもやをしゃべり合うような空間って、それを作り出そうと思うとやっぱりこうなりますよね―「いったいどうやって?」  というわけで、「質問」ということになったわけですが、Hさんの回答にある通り、なかなか「素のマジョリティ男性」を集めるというのは簡単ではなさそうです。でも、こういったフィルターを経由した男性たちということでも、十分いけそうな気はします。 Iさんにはがんばれ―と言いたい。あと、今回のトークライブのあとにメーリスで共有されたこんな本は何かヒントになるかもしれません。あらためて。

 河野真太郎『新しい声を聞くぼくたち』

 このタイトルの中にある「ぼくたち」は、多くの場合、筆者河野さんを含む、マジョリティ男性たちを指します。

(2)卒業後は日本航空(JAL)で客室乗務員
*JAL自体いろいろダイバーシティな取り組みをやってたし、やらせてくれた。セクマイ勉強会とか、会社として東京レインボープライド参加とか。
*コロナでフライト自体が大幅に減少すると、その間に私の社内におけるダイバーシティな活動を加速することができた。例えば、自分の部署の40人くらいのクルー対象にオンラインのセクシュアルマイノリティ勉強会を主催したことも(基礎知識、トランス固有の問題、ジェンダーバイアスを見つけるワーク、JALや空港での取り組み事例など)。この経験が、CAからサステナビリティ専門コンサルへの転職を考えるきっかけにも。―だから、JALやCA自体がイヤになったわけではない。でも、やはり、社会をよりよくとか、より自分らしくいられる社会とか、ダイバーシティな社会とかそういうことがやりたかった。未来にもっといい社会を残したいという思いは強い。
*なぜCAに? CAは子どものころからあこがれの仕事。ここを経由しないと他の道には進めないと思った。だからCAになるのは、やりたいことをやるためのマストだったかもしれない。


 「自分もCAになりたいと思っている、JALの社会での活動なんかについてもっと知りたい。」とか「JALにいるときにサスティナやダイバーシティなことをできましたか?」といった質問もあり、Hさんは、この部分についてもたくさんしゃべったり書いたりしてくれました。JALが近年の「新しい価値観」をふまえたブランディング、企業イメージ更新に力を入れていることなんかも、この後の議論につながる重要な話だったと思います。

(3)「現在はサスティナ・コンサル」―ってどんな仕事??
*どんなことをするのかというと、つまり、いろいろな企業のサスティナ度をチェックして、よりサスティナな企業になるための方向性を示したりとか。「サスティナ・コンサル」という、この仕事は、いい感じに(?)企業にプレッシャーを与えることで、「社会的価値を実現してる企業がいい企業として信頼されるのだ」という意識を企業、そして社会全体に広げていくことをイメージしてる。


 例えば、ということでHさんが教えてくれたこの記事なんかは分かりやすいと思います。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/184115
https://www.ecohotline.com/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=1485

 いわゆる企業に対してだけではなく、学校についてもこういうことできないか、例えば「ESD」という指標があるけど、中高レベルではやってないようだけど―という声はその場でも上がったし、生徒の質問ペーパーの中にもありました。このあたりはアフターdunchで深堀りすることになったので、後述。

 この文脈で、「気候・環境問題に関心のある人はジェンダーの問題にも関心が高い」らしいという話が出ました。これについても質問も出ていて、Hさんも丁寧に答えてくれています。ちょっとなるほどです。

*「気候・環境に意識のある人はジェンダーにも意識がある―どうしてだろう? その他のSDGsにもやはり意識があるんだろうか?」という質問に対して。―仮に片方だけに熱心だとしても(ダイバーシティ一本だったとしても)、市民一人ひとりの行動の積み重ねが社会全体の常識や当たり前を作っていく、という認識はどちらにも共有されているはず。だから、その他のSDGsにも関心を持つ可能性も大いにあると思う。SDGsの根幹は貧困と人権。気候変動やジェンダーもそれらと深く関係してる。興味のある分野や社会課題がひとつでもある人は、SDGsだけでなくさまざまな社会での出来事の共通項を見出せるようになると思う。

 ここでの発想については、Hさんが参考としてこんな記事を紹介してくれています。

https://www.change-agent.jp/news/archives/000031.html

おわりに―アフターdunch
 「サスティナビリティ・コンサルタント」という仕事には、企業にプレッシャーをかけることで、当の企業だけでなく、その業界の、そして社会のあたりまえを更新していくという可能性を見出すことができそうだ―ということで、アフターdunchでは、成蹊中高をそのプレッシャーの直接の対象にしてみてはどうだろう? といったことが話題の中心になりました。
 学園全体については一企業として環境ISO(ISO14001)の認証を得たりしていて(2008)、がんばってるんですけど、中高レベル、もっと言えば、生徒個々の安心・安全、生きやすさというレベルにフォーカスするとどうでしょう? スクール・ダイバーシティも、そんなミクロのレベルにテーマを見出だし続けてきましたが、まだぜんぜんというのが実感です。そこで、という話です。あえて「外圧」を求めるというやり方は、どうでしょう? 例えば、成蹊中高が自分からHさんの会社のような組織を招いて「うちのSDGsチェックして下さい」って申し入れて、で、「ここも、ここも、ぜんぜんイマイチです」って結果が出るんだけど、それをちゃんと公表して、またチェックを受ける―ってかっこいいと思うんですけど、どうでしょう? こういうことを学校として続ける、そうすると、きっとこういうことに賛同してくれる受験生や保護者が来てくれる。そうすればどんどんおもしろくてめんどくさい学校になるのでは―というようなことを、まあ、おしゃべりですけど、みんなで考えました。

 この一連のおしゃべりは「サスティナチェック、自分たちでやるしかない?」という質問に対する回答でもあります。ひと言で言って「外圧を利用しよう、自らを外圧にさらそう」というやり方のススメですよね。で、実は他にもどうすれば学校が動くかということで、いろいろや話やHさんの提案もあるのですが、ちょっとそこには対学校戦略的なことも含まれるので、今は秘密ということで笑。

 ちなみに、「自分たちで学校をチェック」という意味で分かりやすいものとして、バリアフリーチェックをイベントとしてやってみようというアイデアも出ていて、まずはそのあたりのことですかね。Hさんとも相談しながら進めていくと、よりおもしろいかもしれません。
 

 最後です。今年度文化祭トークライブのテーマと絡みそうな話、つまり、コンテンツ「2」に相当する話は、生徒からの質問とそれをめぐるHさんの回答に見出すことができそうです。質問はこんな感じ。

 「10年前、在学中に感じてたダイバーシティ的な違和感があったら教えてほしい。」

 まずは、当日もずいぶん話題に上がった体育のジェンダーについて。当時は違和感を持つことはなかったとのこと。で、みんなの話を聞いて「たしかに!」という感じ。当時「まじか?」と思っていたのは、しばしば耳にした「男なんだから」「男のくせに」「女の子なのに」っていうやつや、男子は異性との交際経験が多いと「モテるやつ」という感じで箔がつくけど、交際経験の多い女子は悪印象―という空気。「蝶々夫人かよ」といういらだちを記してくれました。さて、「もう流石に今はこういうことってないですか?」というHさんの逆質問に自信を持ってうなづけるでしょうか?

 

Hさん、忙しい中、どうもありがとうございました。


では、また。次回更新は、文化祭ネタだと思います。