文化祭トークライブ「「らしさ」とセクシャルマイノリティ −アムネスティと考える日常と世界−」③  | スクール・ダイバーシティ

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成蹊高校生徒会の1パートとして活動しています。あらゆる多様性に気づく繊細さ、すべての多様性を受け止める寛容さ、疎外や差別とは対極にあるこんな価値観を少しでも広く共有したいと思って活動しています。

 前回に引き続き、「「らしさ」とセクシャルマイノリティ −アムネスティと考える日常と世界−」のトークライブを掲載します。今回は、今までの議論のまとめとして、スクールダイバーシティの活動の意味とその可能性について話した「スクールダイバーシティにできること」編を掲載します。私たちは、自分たちの活動が社会の「居心地の良さ」を少しでも増やしていきたいと思っています。しかし、自分たちの力や声ではどうしようもできないような事例を目の当たりにしたとき、私たちには何もできないような気持ちになることがあります。私たちはどのように自分たちの活動を意味のあるものにしていけるのでしょうか。

 

生徒m:「ただ、こういう遠い国で起きている、とてつもない人権侵害の事例を目の当たりにすると、自分たちが普段行っているダイバーシティの活動がすごく小さな、力ないものに見えてくることもあります。」

 

生徒f:「たしかに。私たちは、やっぱり学校や社会を少しでも良くしたいっていう気持ちがどこかにあって、それを信じて活動しているけど、こういう事例を目の当たりにすると自分たちでは何も変えられないような気持ちになるよね。」

 

アムネスティ・スタッフ:「そういう気持ちは、アムネスティとして活動している私もいつも感じています。世界の事件を発信して、世界は広いなぁ、日本は平和だなぁ、で終わってしまったらどうしようって思うこともあります。」

 

生徒m:「アムネスティのみなさんは、それについてどのように考えているんですか?なにか工夫すべきことがあれば、参考にさせていただきたいです。」

 

アムネスティ・スタッフ:「まず、私たちにできる活動って、いろいろな段階に分かれていると思うんです。すぐに結果を出すべきものもあるけど、じっくり時間をかけてやっていくべきものもあるじゃないですか。」

 

生徒m:「そうですね、今、命が脅かされるような人権侵害が起きていたら、時間をかけるのじゃなくて、すぐにその人を助けるために動かないといけないですよね。」

 

アムネスティ・スタッフ:「そうそう。緊急事態的にやらないといけないときは、署名を集めて国に訴えかけたり、抗議のメッセージをだしたりしています。」

 

生徒m:「署名なんですけど、署名をしたことでどれくらいの効果があるのかが気になります。」

 

アムネスティ・スタッフ:「署名によって政策が変わったり、人の命を救った例は数え切れないほどありますよ。アムネスティも、最初は人権侵害のニュースを聞いた創設者が署名集めを始めたところから始まったんです。」

 

生徒m:「いい意味で意外で、ちょっと驚きました。力になれそうなことにはどんどんアンテナを張っていこうと思います」

 

アムネスティ・スタッフ:「あと、署名には名前を書きますよね。支援を必要としている人にとっては、自分のために署名してくれた人の名前をそこに感じることによって、それだけで心が救われると思います。」

 

卒業生f:「アムネスティではLove Beyond Gendersのキャンペーンの一環として現在フォトアクションを行っていますよね。」

 

教員f:「メッセージをもって写真を撮る活動で、写真付きの署名みたいなイメージでしょうか。」

 

アムネスティ・スタッフ:「ありがとうございます。これは、自分の住む自治体に対してセクシャルマイノリティの権利を積極的に保障するような法整備を求めていくものなのですが、賛同者が自らのメッセージを書いて写真で拡散していくことで、ここに賛同者がいるよっていう力強いメッセージで寄り添うことができるものなんです。」

 

生徒f:「いいですね。たとえ顔が映ってなくても、そこに自分の味方をしてくれる人がいるっていうことがわかるだけでも、すごく心強いと思います。」

 

生徒f:「署名によって法整備を訴えることも必要だけど、一方で、さっきの南アフリカの事例みたいに、法整備はある意味完璧なのに、自分らしく生きているだけで命を奪われる人がいるのも事実ですよね。」

 

アムネスティ・スタッフ:「そうなんです。さっき言った、私たちの活動に段階があるというのはそういうことです。すぐに結果を出す必要のあるものと同時に、じっくり時間をかけてやっていくべきものもあると思います。それは私たち個人個人の中にある様々な偏見や人権侵害のもとになってしまうような規範に、気付くことです。そしてそれをたくさんの人と共有して、議論を重ねていく作業です。」

 

教員f:「それってすごく時間がかかる作業ですよね。」

 

生徒m:「でも、私たちスクールダイバーシティの活動って、そういうものだと思います。活動を通してまず自分の中の偏りや偏見に気が付いて、それをみんなで話し合って、面白いものを学校全体で共有しているからです。」

 

アムネスティ・スタッフ:「そう、だから、やっぱりスクールダイバーシティがやっている活動みたいな、ゆっくりゆっくり、じっくりやることがすごく大切だと思うんです。私たちがやるべきことの中には、人権を守るための法律を整備するっていう作業もあるけど、ただ自治体や政府に訴えかけるだけではなく、その法律の必要性をそこに住む人たちに訴えていくことも必要なんです。」

 

生徒m:「じゃあ、自分には何もできないかも、と思った時には、自分が今やっている活動には何が必要なのか、即効性のあるものなのか、それとも慎重に丁寧に対話を重ねて進めていくべきものなのか、考えることで前に進めるかもしれませんね。」

 

教員f:「そろそろ、いい時間になってきたと思うんですが。今回、この成蹊のスクールダイバーシティがアムネスティの皆さんと一緒に活動することで得たもの、たくさんあるんですが、いかがでしょうか。」

 

生徒f:「まずは、私たちが身近な生活の中で感じている息苦しさというか、ジェンダー規範のようなものが、同性愛とか異性愛に関係なくそこにあって。セクシャルマイノリティの問題を解決するぞ!ではだめで。根本にある、『男らしさ』『女らしさ』からくる生きづらさを解決していこうっていうその延長線上に、誰もが自分らしく生きることができる社会があるような気がしました。」

 

生徒f:「あとはやっぱり、自分たちの活動が、即効性のある薬ではないということ。そういうことも必要だけど、一方で、じっくり時間をかけて慎重に重ねていかないといけないことがあるということを再確認できたことですかね。」

 

教員f:「緊急事態的に必要な活動は、アムネスティとか、やっぱり活動のパイプを強く持っている団体がいるっていうことは心強いよね。」

 

生徒f:「そうですね、そして自分がそういう、アムネスティのような団体を通じて発信するメッセージとか署名とかが、実際に社会を変える力に繋がっているということがわかって、なんだからこちらも救われたような気持ちになりました。」

 

 

教員f:「最後に、アムネスティ・スタッフから一言いただけますか」

 

アムネスティ・スタッフ:「ジェンダー規範による息苦しさを感じる場面は、さっきまで話したように、日本社会でもあって。でも、それがセクシャルマイノリティの当事者の人びとにとって、私たちが想像するよりもずっと重苦しい居心地の悪さを感じていると思うんです。日本でキャンペーンをするにあたっては、やはり、より多くの人に息苦しさを知ってもらうこと、そして、政府や自治体に少数者の人権を積極的に保護する姿勢、つまり法整備をおこなってもらうことを目標としています。この会場で話を聞いてくださった皆さんの中で、もし興味を持った方がいたら、ぜひキャンペーン中のLove Beyond Gendersの活動に参加してほしいです。」

 

生徒m:「フォトアクションは、抵抗がある人は顔を写す必要はないし、要望も自分たちで好きなメッセージを作れるので、ぜひやってみてください!ダイバーシティの教室展示には、私たちが撮影して発信したフォトアクションの写真があるので、ぜひ見てみてください。」

 

生徒f:「重要なのは、そこに支援してくれる人が一人存在しているということを、発信することだと思います。遠くの誰かが、自分のために何かを発信してくれていると感じたら、きっとそれは、そのメッセージを必要としている人にとってなによりも心の支えになると思います。ぜひ、よろしくお願いします。」

 

教員f:「山下さん、本日はありがとうございました。」

 

 3回にわたって掲載させていただいた、アムネスティインターナショナル日本とスクールダイバーシティのトークライブ、いかがだったでしょうか。このトークライブで私たちが見つけたもの、それは、「小さな声が集まると社会をよくする力になること」、そして、「身近な小さな生きづらさは、大きな人権侵害につながっていること」です。今このブログを読んでくださっている人の中に、差別は許されるとか、侵害されてもいい人権もあるとか、そんなことを考えている人はいないと思いますし、実際にそうだと思います。でも、私たちはいつも、「こうあるべき」という規範を自分と他人、そして社会に期待して、自分自身が生きづらい社会を作ってしまっていることがあります。それは無意識に行われていて、最後まで気づかれないこともあります。しかし、気づいている人は傷ついているのです。ズキッという心の痛みは、やがて社会全体に広がれば人権侵害につながるような可能性をはらんでいます。身近な生きづらさについて目を向けること、私たちの活動は学校という場をフィールドにしています。今は学校の中の小さな活動かもしれませんが、考え続ける、異議を唱え続けることによって、気づきを皆さんと共有していけると思っています。

 

 ダイバーシティは、誰かに「お願いしてやってもらうこと」ではありません。自分の「わかってない」に気づいて、自分が恥ずかしいと思って、流してしまっていた事実に気が付く活動です。アムネスティインターナショナル日本の方とのトークライブを通じて、私たちは今後の活動に対する原動力をまた一つもらうことができたと思いました。