…こち…かえ…じ…わった…
急に世界が動いた。
黄昏のような風景が、光の虹彩のような滲んだ風景に染まって
…あー。帰ってきたか。事態が変わった。
へ?
そこは、ホテルサニーピースの中。
へ?こっからが向こうの世界のいいところ…
…わかってる。事態が変わったんだ。
何かを操作する…まあ、白メガネ男子がいた。
…ピエロの方から連絡があってね。世界内で急変が起きてるから、ディフェンダー側に早く世界から別ワールドに移行してほしい、的な。
へ?だからー、今からがいいところ…
オールドラクーンやら
サイレントマジョリティ法案やら…
…仕方ないだろ。今からピエロと通信を繋ぐから、話をしてほしい。
み、みづほは?
…とりあえずニューフィールドに向かってる。
こんなに早いと思わなかったんだ。
な、何が?
展開が読めなさすぎ…
…私にもわかってた。だけど、5年先だと思っていた。…3つのケースを想定しててね。
10年なら、間に合う可能性が高い。
5年なら、微妙。
2年なら、世界の終焉。
は、はい?
意味がまったく…
…君がオールドラクーンに飛んでる間に、世界に終焉の微粒子が降ったんだ。
???
…人々を自閉と沈黙の闇に向かわせる微粒子。
これが降るまで2年だとは思ってなかった。
この微粒子は、人々の関係性を破壊して、人間をヒトに戻す。
そうなると、闇に耐えられないディフェンダー側から順に崩壊して
地上には、自閉個体だけが彷徨うようになる。
えーと、自閉個体て…もしかして…
…そう。エコノミック達だよ。もちろん裏側にはピエロ集団がいたわけだが、事態がピエロ集団の想定も超えた。
ピエロ集団は、世界の外側にいて
自閉個体たちを支配する予定だったっぽいが…
…あとは私から説明する。
ベッドに置いてあるモニターに
リモートルームで見た、ピエロがいた。
…まあ、だいたいホワイト君の言う通りだ。
つまり、地上に降った微粒子は、堕天使たちが
私達の奪権工作に気づいてバラまいた代物でね。
いわば、ヤケクソの侵略テロみたいなものなんだが、微粒子の威力だけは本物なんだよ。
なので、私達もまた、別世界に向かわせてもらう。
えーと、ピエロて、世界を支配するんじゃ?
…こうなると、無理だ。自閉個体の自閉化が早く進行しすぎて、個体内の闇やら我欲やらが噴出する自閉個体が多発する。
そうなると忠実な世界の構成下部個体にならない。なので、進行を抑える動きを君たちに期待したとこはあるんだが、堕天使側が微粒子弾を呼び込むまでは考えてなかった。
…
…まあ、微粒子弾で世界に自閉個体が溢れると、堕天使たちの考えるサイレントマジョリティ化も頓挫するんでね。堕天使側のサイレントマジョリティ化と、私達の構成下部個体の相似性があったんで、彼らに協力してみたら、彼らはサイレントマジョリティたちに闇と我欲を持たせたまま、私達が考えるより、エネルギーを強力に吸い取るつもりなことがわかった。
そんな吸い取り方をすると、自閉個体側が消え果てて、吸い取る先がいなくなる。
そして、枯れ果ててしまう。
えー、なんとなくは理解してきたんだけど
んー、
ガチで世界終焉てこと?
…そう。それ、な。私達のほうは末永く吸い取るつもりだったんだが、堕天使たちのほうは、闇濃い世界からの侵略者みたいなもの。…で、一気にサイレントマジョリティ化を図りにかかったわけだよ。
モニターに、どこかの街の風景が映った。
そこには
やけにロイドっぽいフェイスフィルムを装着した
エコノミックたちが、無言で何かをオベーションしていた。
…あれが、微粒子の威力だ。自閉しなければいけない、という強迫発想そのものをマインド内にバラまいている。自閉しなければならない、わけだから、互いの個体が邪魔になる。自閉状態が進むと、他の個体が個体の意志で自発的に行動していることそのものが邪魔になるからだ。
自らの自閉ワールドに存在しているワールド内キャラクター以外の、他の個体のワールド内キャラクターが世界に存在することを許せない。
自らの自閉ワールドルールのほうに抵触する。
…
…なので、相互に圧力をかけ、相互を沈黙させようとする。それをすべてのエコノミックがやるわけだから、圧力をかけあって、どの個体も自我を封印されることになる。
つまり、自らの自閉ワールドの特性を世界上に露出させることが一切できない。
出せば、その特性を邪魔だと思う他の自閉ワールド構築者に襲撃される。
結果、世界上に設定されている…まあ、堕天使が設定しているんだが…堕天使側に都合の良い、極めて生産奴隷的な行動だけが賛美され、すべての自我が封印される世界が出来上がる。
それ、サイレントマジョリティ法案なんじゃ…?
?
…そうだ。そこを法案化して強制しようとしたのがサイレントマジョリティ法案だ。もちろん、社会である問題行動者の問題を盾に取った上で、絶対正義側から自我行動者を制圧する方向だったわけだが。
モニターに動くエコノミック達の画像が変化した。
エコノミック達は、フィルムを貼り付けたまま
集団でどこかに座り込んで、
何かのデバイスと、棒のようなものとを持ち
デバイス内に何かを語っていた。
その、相互のエコノミック達は
同じ場所にいる、別のエコノミック個体の存在を、まるで認識できている気配もなかった。