ん? ここは?

新幹線を仙台で降りた後、僕は駅前に立ち込めていた白い霞の中を突き抜けた。


白い霞を抜けると


2010年だった。


そう、僕は最終バスでやってくる友人を迎えに、近くのバス停に来ていた。

最終バスの到着まではかなり時間があるんだけど
バス停近くのスーパーマーケットで買い物しておく必要があったから、かなり早めにバス停近くに着いたんだ。


想定よりかなり早く買い物が終わってしまったんで、バス到着までは40分以上時間がある。

仕方ないから、自動販売機へ向かい、缶コーヒーを買って飲みながらゆっくり待つことにしたんだ。

自動販売機はバス停から少し離れている。

その離れた販売機でコーヒーを手にして、バス停に戻ると
バス停のベンチにぽつん、と一人の少女が座ってた。

このバス停の周辺は、治安があまり良くない。

心なしか、少女は不安そうに見える。

とりあえず少女の乗るらしいバスで降りてくる友人を迎えに来たわけだから
バス停にある二つのベンチの片方に座って、買ってきたコーヒーのプルタブを開けた。

鋭い音が、夜の道路沿いに響く。

その音に少女が気づいたのか、
こっちを向く。

やっぱり、少し不安そうだ。

ま、夜9時だからな。
どこかの高校の制服らしい服装の少女が、話しかけてきた。


あのう。ここから地下鉄に乗る方法て、何かないですか?

地下鉄?

はい。とりあえずこっちのバスに乗ったら天満橋に着くんですよね?

うん、着くよ。

だけど、40分くらいバス来ないじゃないですか?

そうなんだよ。僕もそれに乗ってくる友達を迎えに来たんだけどね。まだまだ先だなぁ。

えーと、このバスで天満橋に行かないと地下鉄て、乗れないですか?

ん?地下鉄でも方向いろいろあるけど、どの線?

地下鉄ならどれでもいいんです。とにかくどこかから御堂筋に乗換えれたらいいんで。




少し考える。
このバス停から地下鉄に乗るなら、実は京橋駅まで歩いた方が遥かに早いし、
京橋が治安が良くなくて不安なら、OBPという手もある。


だけど、どっちにしろ、夜9時に女子高校生らしき女子が歩くような道じゃない。


うーん、歩く手もあるんだけどさ。ほら、逆側にもバス停あるよね?


道の向こう側のポールを、僕は指差す。


はい。

少女がうなづく。


あそこから乗ったら、鴫野か横堤に着くんだよ。どっちも地下鉄ある。

あ、あっち行きも地下鉄駅前行くんですか?
でも、結構待ちません?

15分くらいで来るよ。この辺りは本数少ないから時刻くらいは頭に入ってる。

え?15分で来るんですか?なら、それでどっちかの駅前に行きます。鴫野と横堤て、駅前まで行きますか?

うーん、鴫野は降りてから少し歩くかな。横堤なら降りたらそのまま駅前。

なら、横堤から乗ります。鶴見緑地線ですよね?



僕と不思議な夜の少女は
やってくる15分後のバスを待つことになった。


正確には、僕は逆からくる更に25分後のバスを待つんだけど、15分は二人とも同じ路線のバスを待つことに変わりはない。


少女が、僕の買いこんだチャーハンと唐揚げに気づいた。


あ。唐揚げ。私、唐揚げ大好きなんですよ。

あ、そなんだ。僕も結構好きでさ。


そんなことから、待ち時間を持て余す二人はごはんトークをすることになったんだ。


私、ごはん大好きで。実家にサーモンの塩辛みたいなのが親類から送ってくるんですけど、それあったら5杯くらいごはん食べちゃうんですよね…

5杯?いやさ、今からくる友達もさ、このチャーハン4つくらい買って一気に食べる奴なんだけどさ、そいつでも4つ目でいつも
3つで止めといたらよかったです…
て後悔してるくらいなんだけど。…5杯?

あー、後悔するキモチわかりますー。私も4杯目くらいで、あー、止めといたらよかったかな、て思うんですけど、サーモン美味しすぎてついつい食べちゃうんですよー。

あー、やっぱり後悔するんだ w


そんなごはんトークで彼女が安心したのか、なぜこんな時間にバスをこんな場所で待っているのかを話し始めた。


ほら、そこに市立の公民館あるじゃないですか?

あるある。

最近そこで英語のスピーチ練習するサークルに参加してて。

あー、そうなんだ。だからこの時間?

違うんですよ。普段は向こうの…


向こう側のバス停を指差して


向こうの天満橋行きギリ間に合うくらいまでスピーチ練習がかかるんです。スピーチ全員が終わったあと、みんなでそれに感想やら、付け足しやらするんで。

あ、そんなもんなんだ…

だから向こうのバスにちょうど乗れる、てメンバーに聞いてあっちで帰ってたんですけど、今日はえらい早く終わって…

ふんふん。

まさかそんなにバスの本数少ないと思わないじゃないですか?1時間に一本とか。

まあ、大阪市内とは思えないくらい過疎路線だよね。ここは。

そうなんですよお。だけど、他に地下鉄向かうルートもわかんないし、メンバーみんなJR乗って帰るから先に逆に帰っていったし。


確かにこのバス停から公民館を挟んで逆側には、JR駅がある。


だけど、私、この地下鉄カードにチャージした分で帰らないと、そんなにお金ないからまずいんですよ。これ、地下鉄とバスは乗れるけど、JRは乗れないじゃないですか…


よくは知らないが、確かそんなチャージカードがあることは僕も知っている。


チャージした分なら乗れるから、どの地下鉄でもよかったんだけど、JRだけはダメで、だけどバスは待つし、地下鉄駅がどこにあるかわかんないし、困ってて。ほら、この辺りほとんど人歩いてないじゃないですか…いつもバスも誰も待ってないし…


それで彼女が不安そうだった理由はわかった。
人のいない夜の街が不安だったんだな。


そこまで話したとき、ガードをくぐった先からバスが向かってきた。

あ、来たよ。あれが横堤向かう。

ありがとうございました。おかげで安心してバス待てました…

少女がペコ、と頭を下げた。


バスが少女一人だけを乗せて、走り去る。


そのバスは、坂道へ向かっていったバス。

彼女は、坂道を登っていったんだ。