気がついたら、バスは朝日の中を走っていた。


よ、良かったあ。助かったあ。


空いている夜行バスの中で、とりあえず雪見だいふくがあるはずの場所に触れてみる。


何も、ない。


Xなパーツのあたりを撫でてみる。


うん。どちらか言うとXじゃなくて、Yだ。


どうやら、僕は助かったらしい。

汗まみれで自分と格闘する試練の刻から。


あれが夢だとは思えなかった。

夢ならば、あまりに感覚がリアルすぎる。


夢て、もっとふわふわしてるもんなんだよね。

いきなり違う場所に行ってたり。


あんな逃げられない試練の刻と軟禁部屋みたいな感覚は、夢だと簡単に逃げ出せるんだよね。

夢の中で夢から目が覚める、とか。


バスは、もうじき大阪に着くらしい。
新御堂筋は今日も動かないけど、それでももうじき大阪に着くらしい。

あとは、普段の僕に戻れるんだ。





そこから、不思議な僕の世界はスタートした。

いや、今までと特に何も変わらないんだ。

だけど、何かがふわふわして見える。


まるで、夢の中みたいに。


だけど、僕の普段の日々は続いている。
何かふわふわする感覚だけど、日々は続く。


そう、2014年の、あの日までは。


新御堂筋沿いに、大きな公園がある。

夏のある日、僕はそこを訪れた。

特に、何の意味があったわけじゃなくて

だけどなんとなく意味があるようなそんな気もして

訪れた公園に
大きな木がいた。


その木のそばに、なんとなく腰かけて
木を見てると

自分の目の前で、どんどん木が大きくなっていく。

いや、大きくなってるんじゃなくて
まるで、吸い込まれていく。

僕のふわふわした感覚に
更にふわふわした声が響いてきた。


本当の自分を思い出しましたか?

へ?

あなたは、還っていくんです。

へ?

今、あらゆる還っていく者たちがここのような場所に導かれて、同じようなメッセージを受けています。

は、はあ。


僕は、頭がとうとうおかしくなったのかと思った。
まあ、長くふわふわしてるもん。


あなたは、気づいていくことになります。さまざまな風景の中で、仲間たちに出会ってきたことに。

は、はあ。


早く帰って寝なきゃ。夏に散策なんてするもんじゃない。汗まみれだし、暑いし。



あ。


あ。


暑いのと、汗まみれで思い出した。


あれが


本当の自分?


大きな木は、もうメッセージを出すことはなく
ただ、そよそよと揺れている。


ちょ、ちょおい!
あの変態スーツな汗まみれ女子が本当の自分てどういうことですかあ!


一つだけ、メッセージが来た。


あなたは、坂道の天使です。


あ。そだっけ。


二回とも試練の刻から先に行ってないから忘れてたけど、あれて、乃木坂に自分が入った夢だっけ。

設定だけそれで
あとひたすら謎のコスチュームと格闘してたからそこが忘却の彼方に飛んでたし。


木は、もう何も語らなかった。

まるで、未来を語るのは

僕自身だというように。
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