縦書きブログ(小説) | 交心空間

交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 日本語文章における数字表記について述べたとき「縦書き文化は廃(すた)
れるか」という疑問を投げかけました……。
 そこでインターネットをサーチしたところ『縦書きブログ』で文章を公開し
ている人たちを見つけました。そのいくつかを記します。


読みやすい、わかりやすい「縦書きブログ」
  ■その日その日らく描き絵巻(八軒家南斎)
  ■日刊フジ物語(米山公啓)
  ■上田早夕里ブログ(上田早夕里)


縦書きしたい人のために 【アポロさんのブログ記事より】
  ■ユメウツツ
  ■日本吉
  ■杉篁庵
  ■インド雑記


蛙の庭 縦書きブログ詩集
笑犬楼大通り(筒井康隆)


 なんか落ち着くというか癒されますね。ホッとしました。
 特に朝日ネット運営による小説家・筒井康隆氏の『笑犬楼大通り』には驚き
と感心の限りです。中でも「偽文士日碌」は“本そのもの”です。


 さらにいろいろとサーチした結果、占い師のアポロさんが書かれているブロ
グで以下の記事や方法記述に辿り着きました。「!」と思い、参考にさせても
らいました。(アポロさん、ありがとうございます)


縦書きの記事はいかが? 【アポロさんのブログ記事】
縦書きしたい人のために 【アポロさんのブログ記事】
ブログに縦書きの記事を投稿する方法 【アポロさんのアポラボより】


 ……ということでショートストーリー『冬の花火』を縦書きでお届けします。


  (注)縦書きで表示されるのは Internet Explorer(バージョン5.5以降)
     のみです。それ以外のウェブブラウザでは横書きに表示されるとの
     ことです。【2008年1月現在アポラボ記事の情報】


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冬の花火


 仕事の失敗でどうしようもないダメージに包まれた俺は、浴びる
ほど飲んだ酒に操られて、冬の夜、飲み屋街を彷徨っていた。ふと、
ネオンの明かりも届かない狭い路地の暗闇の中で、幻想的に舞い散
る光を見た。そして吸い込まれるように、俺はその路地に入って行
った。

 ──花火?

 路地の一番奥でキラキラ輝いていたのは、花火だった。花火をし
ているのは、いかにもお水といった雰囲気の女だ。俺は女に近づい
た。しゃがみ込んで花火をする女の傍で、俺は壁に寄りかかり見下
ろしていた。
交心空間 徒然雑記-「冬の花火」挿絵

「バカみたいでしょ。冬に花火なんて」
 女が俺を見上げた。
「いや。いいんじゃないの」
「私ね、宇宙を見たくなると、いつもこうするの」
「宇宙?」
「暗闇の中で、ほら光の子供たちが生まれては消え、また生まれて
いくの。まるで星の誕生みたいでしょう」
 花火の中心から放たれた閃光が、周囲の黒を一瞬の宇宙に変え、
そして哀しげに消えていくのが見える。がっくりと肩を落とし、呆
然と佇む俺のつれなさを察知したのだろうか、花火を揺らしながら
女は聞いてきた。
「あなたは? どんな失敗をしたの?」
「……二億の商談、他の業者に横取りされちまった」
「そっか……じゃあ、私なんかまだいい方だ。いやな客にネチネチ
されたぐらいで、こんなところで憂さ晴らしてたんじゃ、ホステス
失格だよね」
 俺は緩めたネクタイを一気に外して、彼女の隣にしゃがんだ。ネ
クタイを丸めて両端をピンと立てたものを作った。
「ウサギ……月のウサギ……」
「それが?」
「ほら、ここが耳で。見えないかな、大きさ違うけど」
「ヘタクソ」
 彼女は微かな笑いを残した。
 冬の花火はどことなく淋しい。冷たい空気と季節外れという概念
の中で、窮屈そうにその煌めきを放っている。それでも彼女は、ひ
とときの安らぎを楽しむかのように、花火がかもし出す小さな宇宙
に見入っていた。
「最後の一本。お兄さんにあげるよ。やってみれば……」
 赤いマニキュアの手で花火を差し出した。
「ありがとう」
 花火を手に取ると、彼女が火を点けた。冬の花火は、パチパチと
音を立て、暗黒の空間を多彩な閃光で埋め尽くし、夢幻の宇宙へと
導いてくれた。

 そして花火は消えた……。

「サッ、仕事仕事」
 彼女はそう言い放つと、膝をポンと叩いて潤んだ瞳を親指で拭き
ながら立ち上がった。
「こう見えても子供がいるんだ。私の宝もの。宇宙飛行士になるの
が夢なんだって。その子のためにも頑張らなくっちゃね」
 彼女は、煌々と光るネオン街に消えていった。俺は、消えた花火
を軽く振って彼女を見送っていた。

                          おわり





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