クライマックスのあり方 | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

「そこまで考えるんですか!」
 先日、創作に迷走しはじめた塾生と電話で打ち合わせをしていて、私の考え
に驚いた塾生が発した一言でした。


 彼が取り組んでいる作品のドラマ背景は、これまでにないユニークな発想を
起点に、あたかもそうであるかのように理論づけした不思議な時代設定です。
その中で四人の男女が繰り広げるラブストーリーが見どころ……なのですが、
まだ彼はその設定を理解しきれてないようでした。それが影響して、提案して
きたクライマックス案では『作者であるがゆえ、設定を先読みしすぎて人物の
心境を飛び越えた流れ』を考えてしまったのです。確かにそのほうが、ドラマ
チックである理由づけにはなるでしょうが、ストーリー展開において矛盾を指
摘されるものでした。
 大事なのは「ドラマ内で起こる事実」です。視聴者はこの事実しか見ないの
です。それなのに、作者の特権かのごとく「突然それら以外の根拠を持ち込ん
でも」視聴者には何のことやら伝わらず『作者本位』の何ものでもありません。


 ──クライマックスのあり方を解ってもらうにはどうしたらよいか。


 二時間半もの長電話で彼も疲れたでしょうが、これ以上迷い道の奥に入り込
んでは引き戻せないと感じたので、あえて電話でやりとりしました。彼が考え
た案に質問を繰り返し、その答えから彼が踏み外しているところを導き、事実
として積み上げたエピソードを重視するように説明したのです。併せて、私の
クライマックスの考え方を話しました。驚きの一言はそのときのものです。


 ──「お話」でなく「ドラマ」にするためには、そこまで考えるのですよ。


 クライマックスは突然起こるものではありません。冒頭から積み上げてきた
様々なエピソードの中に、クライマックスへの手がかりがあるのです。それら
を集結したものが『大きなうねり』として訪れます。それを克明に描けばいい
のです。大事なのは『ドラマ内事実を見誤らないで、それに沿ったうねりを見
極める』ことです。