略語に気配りを | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 ことわざに『所変われば品変わる』があります。「場所が変われば同じ品物
でも呼び方や使い方が違ってくる。また、その土地によってそれぞれ習慣や言
葉などの違いがある」の意味に使われます。


【A】SEのSEさんはSEを求めてSEに向かった。


 これでは「SE」のオンパレードで何がなんやら分かりませんね。でも、そ
れぞれに意味があるんですよ。修飾文と説明を付記して明確にしましょう。


【B】コンピュータソフトウェア会社でSE(システムエンジニア)をしてい
   るイニシャルがSEさんは、風や川のSE(サウンドエフェクト:効果
   音)を求めてSE(サウスイースト:南東)に向かった。


 コンピュータ業界でSEといえば「システムエンジニア」で、コンピュータ
システムを使った情報処理方法の設計を行う技術者を指します。ところが放送
業界に場を移すとSEは「サウンドエフェクト」で効果音を表します。はたま
た気象や航海など地図を扱う場になると、SEは「サウスイースト」で南東に
なります。イニシャルでもSEの人はいるでしょうし、この他にも「SE」と
略される言葉は、医療分野においては「サイドエフェクト」で副作用を意味し
ます。まさに『所変われば品変わる』です。
 略語を用いた場合、まずその業界では通じるでしょう。勿論業界の人でなく
ても、言葉の浸透率が高かったり、前後の文面からそれが何を指しているのか
分かるときもあるでしょう。しかしながら、意外にも「では、その略語の正式
な呼び名は?」「それって日本語ではどういう意味?」と尋ねると、使ってい
る人の全てが明確に答え説明できるかどうかは、疑問でしょうね。
 したがって略語を用いる場合は、略語を書いて括弧( )内に正式な読みや
日本語の意味を書く(説明する)か、その逆で正式な読みや日本語名を書いて
括弧( )内に略語を書くのが、親切な文章といえます。


【例】SE(サウンドエフェクト)
   サウンドエフェクト(SE)
   SE(効果音)
   効果音(SE)


 一度説明してしまえば、あとに続く文でまた略語を用いても理解を得られま
す。また、システムエンジニアのように説明が長い場合、本文では語句のあと
にリンクを示す(※n)や(注n)を添えておき、本文後に説明を書く方法も
あります。(nは連番)


【C】コンピュータソフトウェア会社でSE(※1)をしているイニシャルが
   SEさんは、風や川のSE(※2)を求めてSE(※3)に向かった。


   (※1)システムエンジニア(systems engineer)の略で、コンピュー
       タシステムを使った情報処理方法の設計を行う技術者をいう。
   (※2)サウンドエフェクト(sound effects) の略で、映画や放送で
       用いる音響効果のこと。効果音ともいう。現実音を収録したり
       擬音を作成して、演出を高めるのに使用する。
   (※3)サウスイースト(southeast) の略で、南東のこと。天気図な
       どで、風向が南東、風速が2メートルのときは SE2m/s と
       表す。


 今回例にとりあげた「SE」は、分野違いでそれぞれに意味を持っています。
それだけに、何でもかんでも略語を用い、そのたびに説明を括弧内に書くのは
好ましくありません。主観として書く「SE」以外は略語を避けるべきです。
 例では「イニシャル・SEさん」が登場しています。これを主観にするなら、
この人についてはイニシャルで書く必要がありますから、他の言葉は略語を避
けるほうがスムーズな文章になります。


【D】コンピュータソフトウェア会社でシステムエンジニアをしているイニシ
   ャルがSEさんは、風や川の効果音を求めて南東に向かった。


 ところが「SEさん」である必要がない場合、たとえば「仮称・山本」とし、
効果音作りについて書くなら、略語を使う対象は「効果音(SE)」に移行さ
れます。その後の展開でもSEと記した場合は、効果音を指すことになのます。


【E】コンピュータソフトウェア会社でシステムエンジニアをしている仮称・
   山本さんは、風や川の効果音(SE)を求めて南東に向かった。そもそ
   も山本さんにとってSE作りは初めてのこと。それでも、新作ゲームの
   開発で演出には生音を使いたいと踏んだからには、自然の音を求めレコ
   ーダーを抱えて森がある南東へと向かったのだ。


   ※        ※        ※        ※


 略語を用いると「その分野に精通している」あるいは「流行の先端をいって
いる」かに受け取れます。また、近代は外来語や新語も多く、その伝達手段と
して略語が往々にして用いられます。しかし、『我々は日本人である』ことを
忘れてほしくありません。国際社会だからと反論もあるでしょうが、書き手の
責任としては、説明を求められたときのためにも、日本語での表現と意味を把
握して使いたいですね。