当時社会的に流行していたものをなぜか今の時期に見てしまいました。昨年放送されたものですけど、現代社会を風刺するかのような内容でズバズバと突き刺さるような内容でした。その内容は大体シリアル要素に当てはまるんだけど、そのシリアスとコミカルのバランスが丁度良く絡み合っていてとても面白かったです。これが映画だとしたら大満足の内容。

 

・あらすじ

大まかな内容として、公式サイトから引用です。
 

「この芸能界せかいにおいて嘘は武器だ」

天才アイドル・アイは死んだ。
遺された双子の妹・ルビーは母に憧れ芸能界へ。
兄・アクアはアイ殺害の協力者であろう実の父親への復讐を誓う。
『アイの隠し子であること』
『前世の記憶を持つこと』
2つの大きな秘密を抱えた兄妹の、新たな物語が動き出す────。

 

 

 

あらすじからしてよくある「転生もの」のあらすじに見えるかも知れませんが、実際は異なる内容。転生ものは確かにファンタジー要素としてありがちな内容だけど、そこに現代……しかもそこに芸能界を入れてくることが斬新な設定だと感じる。一見、ルビーとアクアは違う目的の為に芸能界という世界に入るように見えて、実を言えば全く同じ目的なんだよね。

 

その目的とは、「母親と同じような立ち位置になりたい」。ただこれだけ。

ルビーは確かにそのように感じるかも知れないけど、アクアはそのように感じられないかもしれない。けど、誰よりもアイ……母親のことを好きだったのがアクアであり、慕っていたのが彼。当時人気絶頂中の母親と同じ立ち位置になれば、どんな感じの気持ちになれたのかが分かるし、その目線から見下ろせば誰が母親を殺したのかも分かる。

 

そしてルビーも実を言えばアクアと同じような目的を持っていると言わざるを得ない。ルビーは扉越しに母親の死に際を立ち会っただけであり、死に顔を見たことはない。そんな彼女が母親を殺した犯人を憎んでいないかと思えば……無論憎んでいるはずである。誰だって恩師など世話になった人がある日突然殺されたとなれば、殺した人を憎むと思う。そりゃアクアとルビーを見れば一目瞭然だし、アクアの復讐劇をも見れば尚更。

 

けどルビーだって同じような想いを抱いていることは確実。だからルビーは敢えて母親と同じ道を進んでいき、母親=アイを殺した人間を捜し出す。これが彼女の本当の目的なんだろう……と思うとゾクッとする。それに、前世で叶うことも出来なかった願いや夢を叶えることも彼女のもう一つの目的だと思う。

 

ルビーの前世は寝たきりの少女であり、何一つも楽しいコトなんてなかった人生を送ってきた少女。そんなときにアイというアイドルが自分の人生を輝かせた結果、彼女の人生はみるみる変えていった。そんなアイをルビーは慕うはずがない。つまるところ、ルビーとアクアのアイに対する愛情というものは全く同じでありながら、全然異なる。

 

こんな感じ。あらすじ紹介が長くなるとは思わなかったです。構成考えよ。

 

・物語

で、内容としてはめちゃめちゃ面白い。文句の言いようのない程面白い。まじ、これ傑作レベルなのではないか? と思わせるほどのレベルの高さだった。この面白さを形容する語彙力が足らなくなるほどの面白さでした。
 
特に印象的に残った話を二つまとめる。一つ目は恋愛リアリティーショー。二つ目はルビー。
 

・恋愛リアリティーショー

この話には触れずには居られないと誰もが思った話だと思います。この話を簡単にまとめると、アクアが出演する『今ガチ』という昨今流行りつつある恋愛リアリティーショーの形式を採ったドラマの話。アクアも云っていたことだけど、このドラマはリアリティーに追求されたドラマでもあるため、まず普通用意されるであろう脚本がない。この脚本が無いとドラマはどうしようもなく動かないものになってしまうものの、その代わりに全てキャスト陣の動きだけでドラマを作り上げていく……というもの。
 
触れずには居られないと思ったのは、その話で展開される「誹謗中傷」というテーマ。恋愛リアリティーショーで誹謗中傷となれば、忘れない方も多いであろう某局のドラマに出ていた出演者が自殺したという件。(デリカシーのない人だと思われたくないし、該当の名前を挙げるだけでフラッシュバックして気分を悪くさせる方もいると思うので……ここは伏せておきます。)
 
この話で展開される「誹謗中傷」というのは、人間の黒い部分が滲み出るは滲み出て、頗る気分が悪くなるような演出だったので鮮明に記憶が蘇ってくる。これが尚更、当時のことを思い返せばより鮮明だしタイムリーな話題になってたよねってこと。
 
恋愛リアリティーショーは確かにリアリティーがあり、誰かの恋愛を応援したくなるような作品でもある。だがその一方、人間は誰かを蹴落とすような一面も把握した方が良い。それで誰かが傷つくことを決して忘れないでくれって思いたいが……まあ、人間は忘れる生き物であるから、数ヶ月も経てばケロッと普通に生きる。そして、また誰かを蹴落としたり、知らない誰かを易々と言葉で傷つける。
 
その誹謗中傷を受けた人間は誰にとっても辛いものになるし、衝動的に……まるで糸がプツンときれたような行動を取りかねない。その意味合いをこの作品は見事な演出や洗練された脚本で描ききってた。
 
標的にされたのは黒川あかねという人物なんだけど、歩道橋から飛び降りようとしたところをアクアが助けたところが特にこの話では印象的。アクアはアイが亡くなった後にズタボロに民衆から云われているところを見てきた訳だし、「よくもまあ知らない人に向かってポンポンと云えたものだなぁ」って感じてたと思う。
 
その想いをもう誰にも背負わせたくないが為に、黒川あかねの元に向かったんだと思う。言葉という武器に何度か打ち負かされている姿を見たくない……から、仲間意識があったから。
 

・ルビー(B小町)

ルビーについて。彼女はただ単純にアイドルという道を突き進んでいるように見えて、実は策略家。
 
あらすじのところでも触れたと思うけど、ルビーは母親の死に際を直接見ることが出来なかった人物。そんな彼女がアクア以上に犯人を憎んでいないかと思えば違うはず。アイドルという職業に夢中になっていた母親をいつも傍で見てきた彼女が、前世でも母親の姿を見てきた彼女が復讐心を抱かせるのは何ら不自然なことはない。それどころか、アクア以上に憎しみの心を抱いていることは一目瞭然。
 
が、その気持ちを誰にも見せていないことがこの作品で一番の重要となる。
ルビーは周囲にいつも明るく見せ、まるでお人好しのような性格を見せているけど……まああれは彼女のほんの計画の一部だろうと思う。本当は母親=アイを殺した人間を捜しだし、そしてその人間に誰よりも近づいてゆくゆくは殺していく算段なのだろうと感じるし、アクアを出し抜いてさっさと殺したいという気持ちが山々なんだろうなぁって。
 
けどそんな彼女でももう一つの目的が秘められている。その目的こそ、前世の記憶が鍵となる。
云われての通り、ルビーの前世は病弱で寝たきりの少女。何も出来ないことを負い目として感じ、暗い人生を送ってきたことを自らのコンプレックスとして捉えていた前世。そんなときに出会ったのがアイであり、そのアイの子どもとして生まれ変わったことがルビーの一番の幸せだろう。
 
そしてアイと同じような道を辿れば、きっと同じような輝きを得ることが出来るかも知れない。今度は嘘なんてつかない、真っ白な自分を見せるためにアイドルという道を選んだ……と考えれば、恐らくそれはアイを反面教師としても捉えているかも知れない。アイは自らを嘘と嘘と嘘で重ね塗り、まるで本当の自分が何者なのか分からないほどにまで黒く塗りつぶしてきた。そんなアイをどこかルビーは負い目として感じていたと思うし、「そんな母親とは逆の真っ白な姿を描ききりたい」というのがルビーの本望なんだろうと考える。
 
だから「B小町」というアイが昔所属していたグループ名をつけたと思うし、そうすれば別の目的=復讐を遂げることも可能になる。ま、一石二鳥ってやつ。
 

・まとめ

内容としてはこういう感じ。長すぎると「どんだけスクロールさせる気なんだ」と怒られてしまいそうなので、この辺にしておきます。まだまだ語りたいところもあるけど、一応このぐらいにしておきます。本編はNetflixやAmazon Prime Videoなどで見られるみたいなので是非。
 
おまけで加筆しておきます。
このアニメ、何やら実写化すると言われて揉めているみたいだけど……まず、現実がアニメを超えることはないです。だけど、それはビジュアルに限った話であり、脚本構成で変態じみていればアニメを超えることは可能。
 
何よりこのアニメの題材は「芸能界」でもあるし、シリアスな描写が結構的を得てくることもあるから、そこを中心に描かれていれば何の問題も無く作品の質が下がることはない。が、間違えて不必要なところをかいつまんだ場合、一気に質が下がる。
 
要はバランスなんだよね。どこを中心にして話を作っているか、どこを中心にして見せたいのかという制作陣の思惑が垣間見ることができれば良いんだけど、その思惑を見せることなく、ギャグ映画として成り下がってしまったらそれはもう日本映画の終わりであり、この先脚光を浴びることは二度と無いと思った方が良い。