久しぶりの感想記事でございます。
先週水曜日辺りに買ってきて『ヨモツイクサ』を読んだんですが、全体的な感想を言わせてください。
あ、これ想像の倍怖いやつだけどめちゃくちゃ面白いやつやん。
良かったところ、気になるところに分けて感想を書きたいと思います。
・良かったところ
彼、現役医師でもあるらしいので医学知識がこれでもかって言うぐらい使われていましたし、それがホラー要素となってホラー小説としては滅茶苦茶怖かったです。
一応、あらすじ程度でまとめておくと……。
ページをいきなり捲ると、そこには語り形式で昔の《ヨモツイクサ》の言い伝えが書かれていて、そこにハルという少女が登場。だけど彼女はある村の慣習によって生贄として出されてしまい、《黄泉の森》に取り残される事態に。
彼女はそこで「ダメだ」と諦めてかけてしまうものの、《黄泉の森》に潜む神がくれた力により自分を生贄として差し出した報いを受けさせることに。村中に報いを受けさせた彼女は再び《黄泉の森》に戻って神に「力を返すがよい」と言われますが、ハルはそれを拒否してその神を殺してしまう──。
というような感じです。このあらすじを読んだだけでも怖いですね。(笑)
それでは感想。
全体的に俯瞰すれば、読者をこれでもかという言うぐらい震えさせることができる素晴らしいものだと思います。
物語冒頭で言い伝えから誰かがホラー要素となる怪物に殺害される、という構図はホラー小説あるあるとして、普通に読者を怖がらせることが出来ますし、普通に良かったです。
それでページを捲るごとに物語が展開していく……。私個人として良かったところとして、やはり最後の展開。
そう。
佐原茜がベクター(協力者)だった一面。
ここの表現については背筋が凍るものだったし、今までの展開からすれば少し予想はつくものの、「そこを突いてきたか!」と意表を突いてきました。
多分、小此木がベクターだったというのはミスリードだったんでしょう。さすがです。
猟師しか持っていなかった弾丸をなぜ彼が持っていた? という線を引っ張って、そして佐原茜の姉:佐原椿の元婚約者である点と彼が刑事である点を利用して、小此木=ベクター説を立証させるのは売れっ子ミステリー作家としてさすがだな、と思います。
(見習いたい……)
だけど、それは言っての通りミスリード。
本当のベクターは佐原茜であり、それを裏付ける為の証拠が矢継ぎ早へと並べられていく。茜はそれを聞いているうちに嘔吐をしてしまいますが、「だろうな」って言う感じです。
だってヨモツイクサの生態情報を読者視点から考えれば、佐原茜は操られていた。
ヨモツイクサは自ら繁殖機能を持たないが為に、様々な動物の生殖機能を使って自らを繁殖してきた。それがたとえ人間であれ、ヨモツイクサは繁殖。その人間こそ、佐原茜だったと言うわけです。
確かに最初から読み返してみるとお分かりですが、茜の過去で「森で遭難した」と自ら話していることが明記されていると思います。
そして、そこが誰もが「ああ、伏線か」と気づくと思います。
幼少期の茜は《黄泉の森》に迷い込み、言い伝えに出てきたハル同様、ある鍾乳洞に迷い込み、そこでヨモツイクサの神経経路が出来る。そして、茜は手術中に何度か患者の腹腔内にヨモツイクサの卵を入れた。
──自分が知らないうちに。
かくして自分がまさかのヨモツイクサの女王だと知った茜は、エピローグで自分の後輩:姫野由佳を自分の後継者にして物語の膜がおります。
こんな感じか。ざっと感想を言うならば。
・気になるところ
・エピローグ
ここの部分、続編がありそうな気がするんですよねぇ……。
エピローグで語られている茜は恐らくトランス状態、つまりヨモツイクサに操られている茜だと思うけど、どうして急に後継者なんかを残そうとしたのか分からん。
多分作中に語られていた「留学」の件だと思うけど、きっかけとしては弱いかなぁって思う。何かこう、もっと強いスパイスが欲しいというか……。
・絡み
佐原茜が事件に絡まれていくきっかけが少し雑なような気がする。
一応、流れを示しておくと
変わりない日常を送っていた佐原茜
▽
病院で小此木と出会う
▽
《黄泉の森》の話題が出ると、茜の家族の話題も出る
▽
突然蒸発した茜の家族もあり、茜は次第に事件に足を突っ込んでいく。
というような感じ。一般的に考えてみれば普通かもしれないけど、突然蒸発した家族のことがあるから事件に首を突っ込んでいくのは、少々雑というより弱い感じ。それでもきっかけ作りは行っているから良いものの。
・まとめ
というような感じです。
満点とはいかないし、『硝子の塔の殺人』を超えることは(個人的に)無いと思います。
面白かったのは面白かったんですけどね。