「頑張ってます」──1対1対応で盲信する日本人へ

英語教育の現場ではよくこう教えられる。
「頑張ってます」は “I’m doing my best.” と。

でも、あれは全然違う。
少なくとも、温度が違う


🔥 “doing my best” は限界の英語

英語で “I’m doing my best.” と言えば、
「もうこれ以上できないくらい頑張ってる」「限界まで出し切ってる」
という、かなり熱い言葉だ。

苦しい状況で励ますときや、言い訳するときに使うフレーズで、
日常的に軽く言うものではない。
だから、“How are you doing?” に対して “I’m doing my best.” と答えたら、
ちょっと深刻な状況を想像される。


🌡 日本語の「頑張ってます」はもっと低温

一方、日本語の「頑張ってます」は、
実際のところ “やってます”“続けてます” に近い。
つまり、**「努力の報告」ではなく「継続の報告」**なんだ。

「最近どう?」
「うん、まぁ頑張ってるよ」
この会話に“限界まで努力してます”という熱量はない。
ただ「まだやめてません」「生きてます」程度の体温。
英語で言うなら、
“I’m working on it.”
“I’m hanging in there.”
“I’m doing okay.”
がずっと近い。


🤖 言語の1対1対応という“思考停止”

それでも、日本人は1対1対応を信じたがる。
“頑張る=do my best”
“ありがとう=thank you”
“よろしくお願いします=best regards”

そうやって、単語レベルで変換できると思い込む。
でも本当は、言葉は文化と文脈の集合体だ。
言葉を学ぶとは、単語を覚えることじゃなくて、
その背景にある「感覚の翻訳」を学ぶことだ。

日本人の多くは、「頑張る=do my best」と覚えた瞬間に、
考えることをやめてしまう。
“正しい英語表現を覚えた”と思い込んで、
その言葉の温度差や使う状況の違いを感じ取ろうとしない。

これはまさに、**英語教育における“考えない文化”**の象徴だ。


⚖ 「正しい訳」より「伝わる線引き」

言葉は、文法ではなく感覚の翻訳だ。
「頑張ってます」を訳すときには、
まず「自分がどんな温度でそれを言っているのか」を線引きする必要がある。

  • 限界までやってる → “I’m doing my best.”

  • 続けている → “I’m working on it.”

  • 何とか持ちこたえてる → “I’m hanging in there.”

  • やってるよ(軽い)→ “I’m on it.”

この線を引けないまま1対1対応で覚えていると、
自分の思っていることが微妙にズレたまま伝わる
それは「英語ができない」以前に、思考が翻訳されていないということだ。


🧠 「1対1対応で盲信する人」はAIに似ている

面白いのは、AIの初期段階も同じことをしていた。
つまり、「単語A=単語B」としか学べなかった。
でも今のAIは、文脈や温度を読めるようになってきた。
皮肉な話だが、
「1対1対応で盲信している人間」は、
AIよりも“翻訳精度の低い存在”になっている。


🕊 言葉の裏にある「生きてるよ」

「頑張ってます」は、
もともと“努力しています”という言葉ではなく、
“まだ折れていません”という自己報告なんだ。
だから、「頑張ってます」を英語にしたいなら、
「生きてるよ」「まだやってるよ」という温度を持って訳すべき。

“I’m still here.”
“I’m keeping up.”
“I’m holding on.”
こういう言葉のほうが、よほどリアルだ。


✍️ 結論:「考えずに訳す」は「考えずに生きる」と同じ

言葉のズレは、思考のズレでもある。
「頑張ってます=I’m doing my best」と思考停止しているうちは、
“考えずに生きてる”のと同じだ。

あなたが何をどんな温度で言いたいのか。
それを自分で線を引いて選ぶ力こそ、
本当の意味での「言語力」だと思う。

「頑張ってます」は、ただの一言じゃない。
それは、あなたの“生きてる温度”をどう伝えるか、という問いなんだ。