第9章
◆学校設立
◆活版印刷
◆ソロバンの普及
◆お札の発行と銀行設立
◆100G紙ショップ開店
◆株式会社設立
◆芸術の都
◆終わりの無い異世界
あとがき
第9章
◆学校設立
もみ殻紙製造装置が10台完成し、紙の量産体制に入った。
もみ殻は、農家から無料で調達できた。運送費と工賃のみだから低コストだった。
紙の値段は、1枚1G。飛ぶように売れた。
町中に安価な紙が流通する様になり、国民は読み書きできる人が必要になっていった。
そんな時、国王から国民に教育して良いと連絡があった。
まず学校設立に教師を募集した。行員の中からも読み書き計算が出きる人は教師となった。
そして学校の校舎を建て、運営することになった。

◆活版印刷
次は、文字を活字にした印刷技術を使い本を沢山作る。
まだこの異世界に活版印刷は無い技術だ。
今までは、印刷用に板や粘土板に掘り型板を造る。
型板にインクを塗り紙を印刷する。
しかし型板を掘るには時間が掛かるし、一品物だから汎用性が無い。
だから紙に文字を印刷するには、型板よりも活字を組む活版が適している。
この異世界に活版印刷を広め、本を大量に発行した。
やがて国民の識字率は向上していった。

◆ソロバンの普及
ヨシオは毎日、商人の仕事をしている。しだいにお金の桁数が膨大になってきた。
お金の計算が多くなり、収入と支出も複雑になってくる。
また国民はどの様にお金を計算しているのだろうか?
少額の買い物ならおつり程度だから間違いは少ない。
多額となれば全て紙の上で筆算をしている。
筆算では間違いも多く、時間がかかる。
あくどい商人ならごまかして稼ぐ。詐欺と同じだ。
この異世界にソロバンと言う計算道具はまだ無い。
ヨシオはソロバンを作ってみた。工員達に、学校の教師達に、ソロバン教育を開始した。
皆は驚きと関心を示し、計算は早くなり計算間違いもなくなった。
教師から生徒にソロバン教育を必須とした。
国内の業者にもソロバン計算が広がり高額取引も盛んになった。
国王は、そろばんと言う計算道具に興味をしめし、改めて学校を称賛した。

◆お札の発行と銀行設立
経済が発達し、物の流通量も増えていった。
労働者の賃金も増加していった。
ある日、国王から呼び出しを受けた。
国王が商人アイザキヨシオに言った。
国の物量が増え、人件費も上がり、物価が高騰している。
現在のお金は、金、銀、銅の貨幣だが国内の鉱山はほぼ採掘し終わっておる。
この金銀銅硬貨の増産をどうすれば良いか意見を聞きたい。
国王陛下。
金銀銅硬貨を増産する必要はありません。
お札と言う物を作ればよろしいかと。
お札とは何だ。
信用できる証文を紙で作るのです。
例えば、銅貨は100Gのお札。銀貨は1,000Gのお札、金貨は10,000Gのお札。
信用が第一ですので、お札は偽造出来ない様にして発行します。
お札は、手に乗るコインよりは大きめの紙にして大量に印刷します。
お札は紙ですから、軽く持ち運びも便利です。
これで金銀銅の採掘は必要ありません。
王様は少し考え、大臣に意見を求めた。
大臣達は、それは良い考えだと意見を述べた。
国王は、そのお札とやらを1か月で見本を作れと命じた。
国王陛下、要望がございます。
国王陛下と妃様と王女様の似顔絵を頂きたいのですが。
似顔絵をどうするのか?
お札にそれぞれ印刷しようと思いまして。
10,000G は王様、1000Gは妃様、100Gは王女様の似顔絵をお札に描きます。
それと偽造防止の為に、国印を1枚1枚に押します。
王様はその様にして良い、試作品を早く見たいものだ。
まず、ラベル職人ベルティーニに会いに行った。
香水のラベルは、以前の羊革から紙のラベルに変わっていた。
ベルティーニに話をすると、ビックリしていた。
ベルティーニは金銀銅貨をお札にするのか?
これぐらいの大きさの紙を用意するので、ラベルと同じ要領で型を掘って欲しい。
材質は、金の板、銀の板、そして銅の板、
それと、王国の印鑑を掘って欲しい。
それらは、この国に1枚しか無い貴重な物になることも説明した。
図柄と似顔絵を描いたものは後日持ってくると伝えた。
一ヶ月後、試作品のお札は予定通り完成した。
お札のインクは、黒は鉱物から取ったインク。赤は天然石から取ったインク。
2色刷りにした。そして最大の難点は透かしの技術。
紙をすく工程で、紙の厚さを部分的に変え、光の透過率の違いで絵柄を浮かび上がらせる高度な技術。
この時代には、透かしの技術は無いが、魔法がある。
透かしの技術は、魔法で補うことにした。
王様はお札を見るなり大喜びし、これで我が国の貨幣は安泰だと言われた。
王様。この国には銀行がありません。
銀行を設立することをお勧めします。
銀行とは、貴族や国民の財産を貯金と言う形で安全に預かり、その資金をお金を必要としている人に貸し出しする金融機関です。
それによりさらに国を発展させることができます。
国内の富がお金と言う財産に膨れ上がると、安全に保管し貸し出しする機関が必要なのです。
そしてお札は国内に流通し、「国立幸せ銀行」を設立することを王様は認めた。
しかし国外取引はまだ金銀銅貨の流通が主であった。

◆100G紙ショップ開店
紙は、薄い物、普通紙、厚い物を製作できた。
その用途によって紙は無限の可能性があった。
トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンペーパー
マスク、ペーパータオル、生理用ナプキン、紙おむつ
紙コップ、紙皿、紙ストロー、紙エプロン
包装紙、紙袋、ダンボール箱
壁紙、障子紙、フスマ紙
新聞紙、画用紙、製本用紙、ノートブック
鉛筆(棒状黒鉛を紙で包み固めた物)、色紙、カレンダー
その他色々
まだこの世界に無い紙の製品を100Gで売る。
王国をはじめ、地方の村々で店をオープンした。
それら紙の製品には使用説明書を添付した。
紙の製品は飛ぶように売れた。
国内の衛生状況は飛躍的に向上し、疫病の発生は減少した。
国民の生活も飛躍的に向上した。
さらに
識字率が向上したことで、国民は本を読む様になった。
新聞、料理書、衛生書、魔法書、剣槍弓の実用書、教科書、法律書、辞書、小説、雑誌など
色々な書物は100G~5000Gで少し高いが発行した。
知識は貴族の特権では無くなった。
「香水商人の伝記」と言う本がベストセラーとなった。
◆株式会社設立
この異世界には、株式会社という概念はなかった。
王族、貴族、商人、農民、工夫など個人で経営をするのが常だ。
そこで、商人ギルド、製紙ギルド、工房ギルドなどに株式会社を設立する相談をした。
彼らギルドは、初めまったく話を聞かなかった。
しかし、何回も話をするうちに資本家や国民から投資をしてもらい、利益分配を配当で払うことに興味をしめした。
各ギルドの承認を得て、国王に株式会社設立の許可を得た。
そして香水商会株式会社、リサイクル株式会社、万能製紙株式会社、ワイバーン航空運搬株式会社を設立した。
1株50G 配当は年1%から5%。貴族、国民だれでも投資できる株式会社。
初めは、国王様、王女様に投資してもらい信用を得た。
国王、皇后、王女を絵にした株券を発行した。
しだいに株式の信用が広まり、多くの株式会社が設立された。
そして、国立証券会社が誕生した。
王国の経済は発展し、国民も裕福な暮らしに満足していった。
◆芸術の都
この異世界の経済は発達していった。
しかし、芸術や娯楽といったものは殆ど無い。
歌って飲んで騒ぐ。
花を飾る。
絵を描くが、まだ白黒でカラーは無い。水墨画の様だ。
ラベル職人ベルティーニに会いに行った。
「ラベルに赤青黄色インクを使いたい」と希望したがカラーインクは無いと言われた。
私は、香水から分別した色素からインクが出来ないか思案した。
香水の抽出過程で副産物として色素を取り出す。
カラーインクの主な原料は、顔料と定着材。
顔料は色の微粒子で、バラやアサガオ、ラベンダーナ、マリーゴールドなどから抽出できる。
定着材は液体のり。
問題は、色あせや酸性アルカリ性の変色。
カビや腐敗の耐久性。
顔料化への沈殿と粉末にする技法を開発すること。
現在世界では、ミョウバンと重曹でレーキ顔料技法を用いるが、
ミョウバン;硫酸アルミニウムカリウム。
重曹;炭酸水素ナトリウム。
カビや腐敗の対策は乾燥防止剤や防腐剤や浸透剤が必要だ。
その代替えを魔法で処理することが出来ないか試行錯誤した
結果ついに3原色マゼンタ、シアン、イエロー(赤紫青緑黄色)の顔料が完成した。
そして顔料をベルティーニに預けインク作成を依頼した。
しかしベルティーニは、粉末顔料が沈んでしまうことに悩んでいた。
私はアラビアゴムを煮詰めて作った粘性液を加え、すり鉢で長時間練り続ける方法を提案した。
すると、顔料は液体の中で均一に散り、沈殿しなくなった。
ついにカラーインクが完成した。
カラーインクは、水彩画、油絵、家の装飾、壁紙色などに使われた。
お札の人物像もカラー印刷され、カラフルになった。
むろん偽造防止のために。
国内には、人物、自然、風景絵画を描く芸術家が増えた。
貴族は、絵師に肖像画を依頼し、館内に飾る事を好んだ。
国内の芸術作品は、技術が向上し、国内外の貿易収支で商人は繁盛した。
王国は芸術の都と呼ばれる様になった。
◆終わりの無い異世界
毎日忙しい日が続いた。夕日が王都の街並みを赤く染めていた。
宿に向かう途中、見覚えのある姿が目に入った。路地裏のベンチに座り込んだ老人。前にヨシオが魔石を買い取ったあの情報屋だった。
こちらに気づいて、
おう、兄ちゃん。景気良さそうな顔しとるのう。
町の様子はどうですか?
老人はにやりと、
街中えらい騒ぎじゃよ。ワシの耳に入ってくるだけでも三つ四つ。
老人は皺だらけの顔をくしゃりと歪めた。情報屋としての嗅覚が忙しく働いているらしい。
指を立てて、
一つ、東の国境で軍の動きがあった。小競り合い程度じゃがの。
二つ、南の商業都市ベルガで魔物の群れが出たらしい。
三つ……
老人の目つきが急に鋭くなった。
声を潜めて、
三つ目が厄介じゃ。北の山脈に「古き竜」が目覚めたらしい。鍛冶屋連中が怯えとるよ。
あの山の近くにはドワーフの集落があるからのう。
どれも無視できない情報だった。
東の軍事的緊張、南の魔物被害、そして北の伝説級の存在。
一つ一つが国家の行く末に関わる案件だ。
老人はヨシオを見上げ、情報料を請求するでもなく、ただ意味ありげに笑っていた。
私は100Gを老人に投げ、その場を去った。
老人は受け取って、
気をつけな、兄ちゃん。
背中にかけられた声は短かったが、妙な重みがあった。
宿への帰り道、ヨシオは三つの情報を頭の中で反芻していた。東の小競り合い、南の魔物、北の竜。
どれも今すぐ自分に降りかかってくる話ではないが、「古き竜」という響きは嫌でも記憶に残る。
あの巨大な魔石を思い出せば、竜種がどれほどの力を秘めているか想像に難くない。
宿の部屋に入り、ベッドに腰掛ける。窓の外では夕焼けが完全に消え、夜の帳が降りていた。
明日も紙の量産、紙製品開発、学校の運営、香水、ポーション開発。絵画の販売やるべきことは山積みだ。
だが同時に、冒険者としての血が疼くのも感じていた。未知の脅威、未踏の地、強大な存在。
商人だけでは味わえない世界がこの先に待っている。
夜風が窓から吹き込み、ランプの炎を揺らした。異世界の長い一日がまた終わろうとしていた。
完

あとがき
異世界商人のお話はここで終わります。
異世界商人は今後もっと多くの品物を売買します。
冒険者としても活躍します。
そのエピソードは次回書くことにしましょう。
異世界商人 愛崎好生