アニメーションの『葬送のフリーレン』が好きです。

 TV放送は昨年の秋冬シーズンだったかな。確か、原作の漫画はまだ連載が続いていて、「この漫画が凄い」だったかに選ばれていたと思うのだけれど。残念ながら漫画は読めていない。

 例の異世界設定の物語。主人公はエルフ族の女性で魔法使い。

 異世界設定が嫌いではないのです。むしろ大好物の類。ドラゴンクエストに熱狂してた世代だし。SFやファンタジーは、人間の想像力が生み出した素晴らしいエンターテインメントだと思っているのです。

 

 異世界転生ものってどうなのさと述べた後に、なぜこれか?

 自分には「違う」から。異世界だったら何でもかんでも良い訳じゃない。同じだけど、同じじゃない。

 異世界のような特殊な設定、現実には在り得ない設定を用いるには、それなりの理由というか、何かを熟考する上で必要だからってのがあると思っている。例えば、「アンドロイド」ならば、死なない体は幸せか、感情や心の正体は何物なのか、従順や合理性だけが正義か、など、人間とは何ぞやという命題をより深く考えるために必要な登場人物だったりする。『スタートレック~next generation~』の「データ」というアンドロイドは素晴らしいキャラクタだし、大好き。そして、SF世界を用いて人間を探求したのは、手塚治虫の『火の鳥』シリーズが極みだと思っている。

 

 『葬送のフリーレン』は、そういう意味からして異世界設定を素晴らしく上手に使っている。じゃないと見えてこない人の姿が描かれている。一話一話について語り出したら止まらなくなっちゃうので止めておくけれど。全体的に中世ヨーロッパの牧歌的な長閑さがベースになっていて、ガチャガチャしていないスローテンポが、何かとスローな僕にはとっても心地良いし。作画も音楽も秀逸。

 その中で、この物語における「魔法」は、もちろん攻撃とか防御とかのゲームのような魔法が主と言えば主なのだけれど、主人公フリーレンは「甘いブドウを酸っぱくする魔法」や「杖からカキ氷を出す魔法」など民間魔法と呼ばれる、ある意味くだらない魔法を収集している。当然ながら現実世界には魔法は存在しない。けれど、民間魔法はどこかで聞き覚えがあるような身近な感じがする。登場人物の言葉を借りれば「おばあちゃんの知恵袋かよ…」と。

 そこで、この世界における魔法は「知恵」や「テクノロジー」の置き換えや比喩であると読解することが出来る。現世人の我々も、おまじないにゲン担ぎ、パワースポットにご加護ご利益など「見えない何かの力」を信じたり感じたりしているし、電子レンジにスマートフォンに「原理が完璧に説明できないのに使えるテクノロジー」の恩恵に預かりまくっているし、そもそも電気は見えないし、本を読んだりライフハックを教えてもらったりして「世の中には存在してたのに自分は知らなかった知恵」を新しく覚えたりと、よくよく考えてみれば魔法のようなものに囲まれて、生きている。ゆえに「人を殺す魔法」は、最先端の科学技術を駆使した銃やミサイルと同じだ。僕は本物の銃やミサイルを持っていないし、使い方も作り方も知らない。

 フリーレンは魔法の達人。強力な攻撃魔法も持っている。しかし、集めているのは民間魔法で、一番好きな魔法は「花畑を出す魔法」。ちなみに、フリーレンの弟子のフェルンが1級魔法使い試験に合格した際、「どんな魔法でも一つだけ教えてもらえる」というご褒美に「服の汚れを一瞬で消す魔法(フローラルな香り付き)」をゲット。武器や権力や金よりも、生活を楽にして気分が良くなる方が大事。ミサイルよりも「洗濯機」。そしてフリーレンはにこやかに「さすが私の弟子だね」と褒めるのだ。

 

 毎度毎度、意味のあるものをとは思わないけれどね。毎日重厚なフランス料理では飽きるし。たまにはB級グルメやスナック菓子も食べたくなるし。塩辛いものを食べたら甘いものを食べたくなるし。

 軽やかでありながら、それでいて奥深さがある。『葬送のフリーレン』は、そういうバランスの良い作品。面白い。

 …なんだか安っぽいグルメリポートみたいな締めになっちゃったな。

 

湯治場の休憩スペース。