読んだことがある本より、読んだことのない本を読む方が、新しい知識が獲得できて良いに決まっている。出かけたことがある所より、出かけたことのない所へ出かけるのも、そう。

 なのに、読んだことのある本を読み返したり、何度も訪れている所に出かけてしまう。タイパ、時間対効果は最悪で、経済学的には意味不明な行いに違いない。分かっている。ではなぜ、分かっているのにそうしてしまうのか?

 答え。「好きだから」だ。

 

 

 若かりし頃、盛り場の酒場でアルバイトをしたことがある。クラブ的な店でDJが音楽を担当していたのだけれど、通常は選曲した曲を普通に流していて、パーティータイム的な時間になるとシャカシャカとスクラッチ&ループで盛り上げるみたいなのがあった。音楽は好きだけれどもヒップホップに精通していない僕は「シャカシャカやる意味が分からない。普通にかけてよ。曲がちっとも前に進まないじゃないか」と横耳に聴きながら、酔っ払いたちにさらにアルコールをデリバリーすることに勤しんでいた。

 

 ずいぶん月日が経ったある時、音楽に精通しているのだろうと思われる人が、このスクラッチ&ループについて話しているのを聞いた。「DJは貪欲なんだよ。「いい!」とか「大好き!」とか思う瞬間を何度も聴きたいからスクラッチ&ループをするんだ。自分が心地良いと思うリズムやスピードに変えてね。そうして既存の曲を新しい曲にするんだよ」というような話だった。

 すこぶる腑に落ちた。あの時、バイト先のDJが「イイっしょ。かっけーっしょ。yeah」とご機嫌だった意味が少し分かり、自分の読書やお出かけのループ癖も残念なことばかりではないのだな、と思った。ただの同じことの繰り返しなのではない。前に進んでいないのではない。「好き」を高めることで、新しい何かを創造し得るのだ、と。

 

 

 もちろん、ループ癖には他にも理由はあるだろう。冒険よりも安定に安堵を覚えたり、この歳になるとノスタルジックな心境が影響したり、とかね。必要なアップデートはしないと「最近の若いやつは」と古臭いクダを巻き散らすだけの老害に成り下がってしまうし。かと言って、流行を追うのに必死になり過ぎて、何が本当に好きなのかを見失ってしまったり、コスパにタイパにと効率重視が過ぎて、人の心を見失ってしまったりするのは、やはり頂けないし。

 何事も適度、バランス取っていかないとね。って、まったくもって曖昧な答えで終了だyo。yeah。