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最寄りのスーパーマーケットよりソーシャルディスタンスが確保されてた。

それを人は「空いている」と呼ぶ。もしくは「ガラガラ」とか「閑散」とか。

さすが平日。さすが地方都市。

 

ダリの作品展示は大小合わせて20作品くらい。

画集などで見た記憶があるのは2つかな。

どちらも曖昧なのは、

図録を買わなかったこと、

彼は同じモチーフで似たような作品を何点か描いたりすること、

ただただ鑑賞に没頭して、記録的に頭を使っていないこと、

に由来する。

 

宣伝看板に使われている絵は『ビキニの3つのスフィンクス』。

たぶん、これが今回最も知られている作品。

ビキニ環礁で行われた核実験のキノコ雲と、

いびつな形の樹木、女性の後頭部がダブルイメージで描かれている。

彼の着想の基本は「恐怖」なので、

核実験のニュースを見て、怖れ慄いて、描かずにいられなかったのだと、思う。

 

 

彼の作品を直に見る、分かりやすい一番の価値は、

その油彩の超絶技巧だと、僕は思っている。

「奇抜」とか「独創的」と言われるモチーフや構成は、画集でも見て取れる。

事実、彼の絵に魅かれた幼き日の僕は本物なんて見る由もなかったし。

 

絵画は「絵」というだけあって、基本的には二次元。

ただ、油彩においては、絵の具の厚みによって、

彫刻と同意義と呼べるような意味合いが生まれる。

よく「ゴッホの荒々しいタッチが…」とか聞くでしょう。

これでもかと塗りたくった絵の具、そこに刻まれた情念の筆跡、

あれがタッチ、筆使いというやつで、あの絵の具の凹凸は写真集では消えてしまう。

それが直に見ることで「うわぁ無駄に絵の具使ってるなぁ」とか、分かる。

…あまり好きではないので若干悪意が。好きな絵もあるんだよ。

 

ドラクロワが金属質なものだけ他のものよりも絵の具を盛り、立体感を持たせる。

そうすることで実際の光を乱反射させ、本物の輝きを付加させる。

モネが輪郭も曖昧な、ただ絵の具の色を折り重ねてキャンバスを埋め尽くす。

そうすることで、絵との距離によって全く異なる絵に思う程の光と空気を付加させる。

また、フェルメールの「どうやったら、こんな輝きが描けるんだ?」という美しさが、

案外雑に置かれた白い絵の具のハイライトだけだったり、

史上最も有名なダ・ヴィンチのモナ・リザが、

思わず「ちっちゃ」と言ってしまう大きさだったりも、する。

画家の技巧や現物の存在感は、直に見なければ分からない。

 

で、ダリに戻る。

彼の絵は、気が遠くなるほど、滑らかだ。…ゴッホとは真逆に。

目先10cmに近寄っても、

「どうやったら、そこまで凹凸を無くせるのか」と唸ってしまうくらいなのに、

ソリッドな輪郭線や写真のような写実的陰影が、緻密に描かれている。

だからこそ、あの夢と現の境界を超えた世界を、実物にできる。

もう、馬鹿みたいに神経質で、馬鹿みたいに集中しちゃう人なんだよ、彼は。

自ら『「偏執狂的=批判的」方法』と画法を名乗ったくらい。

何度見ても気が遠くなる、超絶技巧。

今回の展示では『ジャック・ウォーナー夫人の肖像』に、僕は昇天しました。

 

 

展示の半分、残り20作品くらいは、日本人画家の絵。

1930年代にダリが日本で本格的に紹介されると、

彼に触発されたシュルレアリストが続々と日本で生まれた。

展覧会のタイトル「ショック・オブ・ダリ」は、彼らが受けた衝撃。

 

えーとね。

感想は「なんかちょっと恥ずかしい」って感じ。

皆、上手なんだよ。僕が言うのも何だけれど。

でもね。

「まんまやん」って。「ダリの威を借るキツネやん」って。

僕も真似て落書きしてたよ。“風な”イラストとか得意気に。

今でも片鱗は残ってたりするよ。好きだからね。

でもね。

何だか、そのある意味「黒歴史」的な感情を、ばばーんと見せられたというか。

あくまでも個人の感想、感情ですので。

 

 

チケットの半券で常設展も見られた。

特別展に合わせて「摩訶不思議な世界」と銘打ち、

所蔵の中からそれっぽい作品群を展示していた。

その中で、ゴヤのエッチング画は素晴らしかった。

先だって収集しているらしく、シリーズで多く集められていた。

ブラボー。いい趣向だ。個人的に。

エッシャーも1枚あったし。

 

 

と、久しぶりに絵画鑑賞を堪能したのだけれど、

鑑賞していて、ふと気づく。どこからダリの絵を借りてきたんだろう、と。

作品には、作品名や制作年代、簡単な説明などを書いたプレートが付いている。

そこに「所蔵」というのも書いてある。

見れば、ほとんどが「諸橋近代美術館」となっているではないか。

宣伝もよく見れば某美術館が特別協力となっている。

 

すいません。知りませんでした。

日本に、こんなにダリ作品を収集している美術館があったなんて。

すぐにググりました。

福島県の会津磐梯山の麓ですって。

スポーツ用品店「ゼビオ」の創立者、諸橋廷蔵さんが私財で創られた美術館。

現在は冬季休館中。12月~4月は雪が大変なんだろうね。

だから、今貸してくれたんだろうね。

 

新型ウィルスが収まって、時間ができたら、必ず行こうと思う。

絵画は今回ずいぶん見られたけれど、彫刻が40点近くあるなんて。

大好きな『宇宙象』があるなんて。

まったく、今回も一つでいいから借りなさいよ。

素晴らしいんだから。物体として、超絶格好いいから。

 

 

絵画を堪能し、帰路に着く。

ちょっと渋滞してても気にしない。

だって、心に栄養補給できてるから。

ちょっと渋滞が酷くなってきたから、高速道路を使っちゃう。

だって、心に栄養補給できてるから料金なんて気にしない。

 

車窓から見えた、満開の木蓮と綻び始めた桜に、

春を実感した一日でもあった。

 

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入り口にあったフォトスポット。有名な「メイ・ウェストの唇のソファ」。

…まるで別のポップな顔になってますけど。