冒険は、危険を冒してでも未知なるものに挑むから面白い。

『スサノオは、大変大人しい良い子で、一生を苦労のない高天原で暮らしました』では、

ちっとも面白くなく、神話どころかニュースにもならないのである。

世界各地の神話や伝説も、ファンタジー物語も、少年漫画も、

SF映画も、ロールプレイングゲームも、どれもこれも、

『安穏無事に過ごしました』では愉快も痛快もないのだ。

 

空海上人の人生行脚も冒険譚だ。

尾ヒレ胸ヒレどころか、角に牙に翼まで付けちゃうくらいの大冒険。

だからこそ人を魅了し、僅かばかりでもあやかりたいと、

彼が訪れたという場所や触れたという物に近づきたいと願う人々が後を絶たない。

元々、宗教自体がでっかいファンタジー物語であることだし。

 

 

「もう、余計なことはできないぞ」

「人の負傷を余計なこと言うな」

「どこかの馬鹿が立てた今日の行程は、かなり無理があるからな」

「どこかの馬鹿がまた余計な寄り道を言い出さなきゃ大丈夫だ」

「このクルマの馬鹿ナビゲーションがまたおかしな道を言うかもしれないし」

「この人も知らない土地だから」

「ほらー。言ってる傍から細い住宅街だもの」

「さっきのとこで海岸線に出られたんじゃね?」

「だろ。こいつホントに…ん?」

「なに?」

「ちょっと待て。もう一回、さっきの所に戻れ」

「なに?こんなとこにダムはないぞ」

「いいから迂回しろって」

「もー」

 

言われるがままにUターンをし、この辺だという所でスピードを落として走ってみると、

 

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「これだ!」という看板。寺内さんじゃない方。

よくもまぁ見つけたもんだ。

 

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よくある住宅街の行き止まりの傍らにポツンと案内の石碑が。

駐車場もなく、ここでいいのかと不安になりつつ路駐。

 

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多少手は入っているものの、荒れた藪山へと階段が続く。

本当にここかよと疑いつつ登る。

 

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在りました。寂れてました。

 

安土桃山時代の戦国武将、長曾我部元親。

土佐国の大名として、四国統一を夢み、

群雄割拠の時代に各地の大名から一目を置かれた男。

乱世にあって、文武の才は基より、慈悲深き懐の持ち主だったという。

(晩年は荒んだらしいけど)。

 

我々の思春期に、天下統一を目指す戦国シミュレーションゲームが大流行。

なので、長曾我部氏と聞けば放っておけないのである。

かのゲームで僕は、元親を自キャラに選択し、四国統一を成した後、

「他国の侵入を許さず、他国への侵略を行わず」を掲げ、

最強自治国家「四国」を作り上げて、寿命が尽きたことがあります。

天下統一が目的のゲームなんだけどね…。

 

「いやぁ、こんな所で元親公に出会うとは」

「うむ。浪漫だ」

「しかし寂れてたな」

「もうちょっと手厚く奉ってあげてもいいのに」

「土佐の英雄の一人のはずなんだが」

「兵どもが夢の跡か」

「いかん。また寄り道を食ってしまった」

「急ごう。昼飯に間に合わさねば」

「あとどれぐらいの距離なんだ?」

「100km」

「…まじか。」

「とりあえず高知自動車道ってのがあるのが救いだ」

 

 

かの番組の四国編において、あちこちのうどんを食す場面がある。

周知の通り、うどんと言えば讃岐、香川県が有名なのだけれど、

大泉氏が「ここは美味かった」と挙げたお店の一つが四万十市近くにあり、

ここには是非寄りたいと思っていた。

その食事シーンが大変美味しそうだったというのももちろんだけれど、

四万十にはなかなか訪れられないからだ。

うどん食い倒れに関して、僕のたっての希望は、このお店だった。

 

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てってれー。

まじか、まじなのか。まじでまじのまじなのか。

ちなみにこの神々しさは加工ではなく、逆光のせいです。

くそぅ、太陽まで俺をコケにしやがって。

 

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本心から項垂れるの図。

遠路遥々、やってきたのに。ぐむぅ。

 

「…デジャヴか」

「…前にもこんなのあったな」

「どうしてこう、いつもいつも」

「持ってるなぁ、俺」

「持たなくていいから、定休日くらい調べとけよ」

「行程的に仕方ないだろ」

「まぁともかく腹が減った。この辺で美味そうな店を調べる」

「…お願いします」

 

本当に本当に残念無念。

ちなみに、駐車場にはもう一台、レンタカーナンバーのクルマがいて、

20~30歳くらいの男の子が一人、我々と同じように店の写真を撮ってた。

きっと彼も、かの番組のファンに違いない。

 

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うどんから、うなぎに変更。

 

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清流、四万十川。伝聞通りの美しい水。

バルコニーというか縁台様の席で景色を楽しむ。

 

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天然川うなぎ。今じゃ貴重品。

ただ、味は養殖の方が美味しいんじゃないかな…。申し訳ないけど。

うどんショックを引きずってたし、正しい判断ができてないかも。

 

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あら、こんな所で。他番組でおいでなさったのね。

他にもたくさん著名人の色紙が飾ってあって、有名ロケ店らしい。

 

 

「美味かったが、何だかな」

「胃袋が完全にうどんモードだったからな」

「うむ。やはり心と体が一致してないと」

「満足たるや、これ如何に」

「嘆いてても仕方がない。次はどこだ?」

「足摺岬」

「また岬かよ!」

「当たり前だろ。もう一つの端っこだ」

「また下道くねくねコースか?」

「当然」

「どのくらいある?」

「50kmくらい?」

「…。」

「時速50kmで1時間だ」

「…分かってる。時速25kmで2時間だ」

「さすが理系」

 

てことで、次の目的地、足摺岬へ出発。

端っこに定休日はない。

が、お寺には閉門がある。

今日はここまで一つもお遍路してないのに、白衣だけは着てるという。

南無。