8月19日は「バイクの日」。
ということで、ラヂオ屋と久しぶりにツーリングでもするかと予定を組んでいた。
が、例の如く、僕の特殊能力が発動し、
バイクの日の降水確率はぐんぐん上昇することとなり、
60%から80%という高確率を提示するまでになった。
こりゃあ諦めるしかねぇなと、高校野球を視聴していた日曜日。
昼前に一本の電話が入る。
「昼から走りに行くか?」。
日曜だというのに午前中に仕事が入っていたラヂオ屋からである。
「いいね。一日前で所縁も何もないけど」
取り急ぎ、準備を済ませて集合場所のコンビニに向かう。
激しい運動はお控えください。東海地方は見事な猛暑日。
エアコンを使用してくださいって言われても、使用できないし。
「暑っちぃな、おい」
「こんな日に乗る乗り物ではない」
「馬鹿しか乗らないな」
「ああ馬鹿だ」
「行くか」
「行こう」
気温36度。
熱せられたアスファルトは、さらに体感温度を上げる中、
石油ストーブみたいなエンジンに跨り、
顔面を圧迫するほどの密封ヘルメットを被り、
万が一のためにも長袖長ズボンは必須、
雪合戦でもないのにグローブを着用し、
登山でもないのにブーツを履いて、
メロスのような大義も目的もなく、走る。
うむ。まったく愚かな行為だ。
酷い腰痛のため、しばらくバイクに乗れていなかったラヂオ屋と、
日々気力を擦り減らして、しばらくバイクに乗る気もなかった僕。
リハビリだなと互いに頷きながら、山間を走る。
走っている間は風を受けるため、
今流行の手持ち扇風機以上の涼感を感じることができる。
じわりと汗ばんだ肌に、袖や襟から入ってくる風は、
ただ安穏と浴びるエアコンの風とは異なる爽快感。
殊に、トンネル内の涼しさは格別で、
クルマでは知り得ない自然の原理を感じることができる。
比して、直射日光を浴びながらの信号待ちとなれば、
数秒で無意味な我慢大会の様相を呈し、
無機質に光る赤いランプをただただ呪詛し続ける。
まさに五感を働かせる乗り物。
不便だからこそ感じる五感。
ということは、便利は五感を鈍らせるということだ。
感じなくなることが人にとって幸せなんて、僕はまっぴら御免だ、と思う。
便利は用量用法を適度に守らねば意味がない。
途中一度、コンビニで水分を取りつつ、1時間半ほど。
ワインディングロードを楽しむ、岐阜県にあるダムまでのツアー。
目的地手前の道の駅で少し遅い昼食にする。
夏野菜冷やしうどん。美味しゅうございました。
お腹が空きすぎて、味噌カツ定食ごはん大盛を注文した馬鹿は、
「敢えて言おう。酷暑に揚げたてのカツは失敗であると」と、
走っている時以上に汗を垂らして宣言してたけど。
馬鹿の同志。
昨今の中高年バイクブームのせいか、こういう所に並ぶ数は増えているように思う。
ラージヒル。
ダムの水量調整のための流水路らしい。
巨大建造物は人の技術力の結晶。
青空に入道雲は夏って感じで美しい。写真では。実際は34度でクソ暑いけど。
走行中はヘルメットに仕込んだインターコムで会話している。
次に曲がる交差点とか、コーナーのキツさとか、
速度の遅いクルマの追い越しとか、あのコンビニで休憩とか、
実用的な用途はもちろんだけれど、要はずっと電話してるようなもの。
なので、ツーリングはもはや孤独&寡黙なものではなく、
カフェで女子会を1時間半おしゃべりするように、
暑いだとか暑いだとか暑いだとか、
くだらないことをずっと話し続けて走る。
たわいない会話と、ただ運転操作に集中すること。
余計な思考をしなくていい時間。
何かが、軽くなっていく。
これこそ馬鹿の効能だ、と思う。
暑いけど。
帰りは少し和らいだなって見た道路脇の温度掲示は33度だったし。
「帰ったら、義理のある通夜に行かなきゃならん」
「自営業はご苦労だね。僕ぁ速攻シャワーを浴びてクーラーに浸るよ」
「シャワーを浴びたら喪服だ」
「何だか申し訳ないね」
「いやいや。いいリハビリだった」
「だな。とっても愉快だったよ。暑いけど」
「暑いな」
「暑いよ」
「馬鹿だけだな。こんなことするのは」
「ああ。馬鹿だけだ」
「じゃな」
「じゃ」
猛暑の半日ツーリング。
帰ってからのシャワーとクーラーは格別。
文明の利器って便利。
あ。