春分を過ぎ、本当に陽が長くなったと思った途端、

女神デメーテルのせっかちな要求に、太陽は猛烈に大地を照らし始めた。

じっくりことことな猶予もなく、強火で一気に煽られた花たちは、

いつもの焦らしテクニックなど忘れたかのように、

膨らみかけたと思った蕾をほぼ二日間で満開にさせた。

桜も、今年は恐ろしいくらいに、どこもかしこも満開になった。

 

運転しながら、目に映る桜を眺める。

美しいな、と思う。

枯れ枝ばかりだった並木が桜色に染まる。

もふもふと柔らかそうな輝きに満ちながら。

 

仕事帰り、傾いた陽に照らされた桜の美しさにクルマを停める。

写真に収めたい、と思う。

あの桜色を、あの柔らかさを、あの美しさを収めたい。

もっと近づけば、もっと感じるはずだと期待しながら。

 

良さそうだと思うところでレンズを覗く。

あれれ、と思う。

花びらが白い。黒くごつごつとした枝が目立つ。花の付き方のバランスが悪い。

大きな木になると、幹の近くはがらんどうのスカスカで何もない。

 

改めて思えば、

桜は、薔薇や牡丹のような単体で美しい花ではない。

小さな花が無数に集まった集合体として美しい花だ。

確かに一つひとつの花も儚げで可愛らしいと見えるけれども、

薔薇の一輪挿しのように単体にしてみたらば、

弱々しく、華がなく、見るに耐えかねる花でしかないだろう。

集合体の美しさを背景に持ってこそ初めて、一つひとつも可愛らしく見える。

 

人に似ている、と想う。

全くの独りでは、美しくない。

集まり、重なり、揺らいで、桜色に輝く。

 

写真に収まりきらない美しさを愛でながら、

一つひとつが懸命に咲き誇っているなと感心しつつ、

僕は独り、クルマに乗り込んだ。

 

 

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『ピースサイン』  米津玄師

 

いつか僕らの上をスレスレに

通り過ぎていったあの飛行機を

不思議なくらいに憶えてる

意味もないのに なぜか

 

不甲斐なくて泣いた日の夜に

ただ強くなりたいと願ってた

そのために必要な勇気を

探し求めていた

 

残酷な運命が定まってるとして

それがいつの日か僕の前に現れるとして

ただ一瞬 この一瞬 息ができるなら

どうでもいいと思えた その心を

 

もう一度

遠くへ行け遠くへ行けと

僕の中で誰かが歌う

どうしようもないほど熱烈に

いつだって目を腫らした君が二度と

悲しまないように笑える

そんなヒーローになるための歌

さらば掲げろピースサイン

転がっていくストーリーを

 

守りたいだなんて言えるほど

君が弱くはないのわかってた

それ以上に僕は弱くてさ

君が大事だったんだ

 

「独りで生きていくんだ」なんてさ

口をついて叫んだあの日から

変わっていく僕を笑えばいい

独りが怖い僕を

 

蹴飛ばして噛みついて息もできなくて

騒ぐ頭と腹の奥がぐしゃぐしゃになったって

衒いも外連も消えてしまうくらいに

今は触っていたいんだ 君の心に

 

僕たちは

きっといつか遠く離れた

太陽にすら手が届いて

夜明け前を手に入れて笑おう

そうやって青く燃える色に染まり

おぼろげな街の向こうへ

手をつないで走っていけるはずだ

君と未来を盗み描く

捻りのないストーリーを

 

カサブタだらけ荒くれた日々が

削り削られ擦り切れた今が

君の言葉で蘇る 鮮やかにも 現れていく

蛹のままで眠る魂を

食べかけのまま捨てたあの夢を

もう一度取り戻せ

 

もう一度

遠くへ行け遠くへ行けと

僕の中で誰かが歌う

どうしようもないくらいに熱烈に

いつだって目を腫らした君が二度と

悲しまないように笑える

そんなヒーローになるための歌

さらば掲げろピースサイン

転がっていくストーリーを

 

君と未来を盗み描く 捻りのないストーリーを