先の記事の計算、万(よろず)を万(まん)だとすると、一部屋に21万の神様かぁ。

それはもう鮨詰めどころか阿鼻叫喚の地獄絵図だなぁ。

神様も大変だ。

 

 

境内付近の観光案内図を眺め、面白そうなものを探す。

お昼時で、出雲そば屋も気にはなったのだけれど、

ちょっと歩いた先に興味を引かれたので、そちらに向かうことにする。

 

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【出雲阿国(いずものおくに)】

安土桃山時代から江戸時代初期の女性芸能者。

かぶき踊りを創始したとされる。

このかぶき踊りが様々な変遷を経て、現在の歌舞伎が出来上がったとされる。

 

彼女は、激動の戦国時代の中で輝いていたであろう、伝説のダンサーだ。

庶民の出であるがゆえ、詳細は謎に包まれている。

しかし、決してフィクションの偶像ではなく、

多くの民衆を虜にし、時の権力者たちに招待されるまでになったことで、

あちこちの記録に姿を残し、その時代、確実に生きていた女性である。

 

彼女のことを知らない人は、

「え?歌舞伎って女人禁制の舞台でしょ?創始は女性だったの?」と思うだろう。

かく言う僕も、彼女のことを初めて聞いた時、そう思って驚いた。

 

 

彼女は、出雲の鍛冶屋の娘だった。

10歳にも満たぬうちに彼女は出雲大社の巫女となり、

出雲大社勧進、すなわち社殿建て替えの資金集めのために、諸国巡回の興行に出される。

この時に踊った「ややこ踊り」、幼い少女が小唄に合わせて舞う踊りが評判となったことが、

後に一座を持つほどの、彼女の芸能の始まりとなった。

 

かぶき踊りは、彼女が30歳になろうかという辺りで催したダンスショー。

ド派手で異風、いわゆる「傾奇者(かぶきもの)」の男装を彼女がして、

茶屋で女と戯れる様子を踊りにしたショーだった。

現在なら、アノすみれの花の咲く歌劇団にエロチシズムを足したような興行だったと

想像される。

となれば、爆発的に人気を集めるのも理解できる。

 

これが大当たりとなり、阿国を真似た興行があちこちで起きる。

特に飛びついたのが、遊女屋。

すなわち風俗業で、阿国歌舞妓をエスカレートさせたストリップショー的な

「遊女歌舞妓」と呼ばれる興行が、京都の四条河原や江戸の吉原で起こされると、

当時の人口において万単位の人を集めるような、大変な人気となった。

再び現在で想像するなら、アノ48人以上の女性アイドルグループが、

あられもない姿で舞い踊り、CDを大量に購入すれば握手だけではなく、

その後にもっと楽しいことをしてくれるというのだから、超爆発的に人気を集めるのも頷ける。

 

そのため、余りの盛況ぶりに幕府は「風紀を乱す」と、女歌舞妓を禁止した。

となると今度は「若衆歌舞妓(わかしゅかぶき)」が起きる。

女がダメなら男でと、まだ成人していない美少年たちが舞台に立つようになったのだ。

時代背景として、当時は男色も当たり前の世の中。

現在で想像するなら、アノ男性アイドルグループJrが、

あられもない姿で舞い踊り、コンサートグッズを大量に購入すれば出待ちだけではなく、

その後にもっと楽しいことをしてくれるというのだから、超爆発的に…

うむ、僕にはよく理解できないけれども、人気を集めることになった。

 

で、再び幕府が美少年禁止令を出すと、

んじゃ成人してたらいいんだろうと「野郎歌舞妓(やろうかぶき)」が起きる。

これも、舞台に立つ者は成人で、その後のアフターサービスに美少年が付いてきたらしい。

弟子という名目で、大勢の美少年を抱えるお師匠さんがいたとか。

また、お楽しみは男性だけではなく、内緒の内緒で、

お金持ちのマダムやマドモアゼルが御贔屓の役者を可愛がることもあったようだ。

 

ま、こうして歌舞妓は男の芸能となり、伎芸を極める道が出来て、

現在、日本を代表する芸能としての「歌舞伎」になった。

 

なので、「歌舞伎って、ストイックで、格式高くて、上品で、セレブだわー」と、

歴史も紐解かずに口走るのは、あまり上品とは言えないと、僕は思う。

エンターテインメントは自分が面白いと思うか否かであって、

「芸能人ってスゴい」という意味不明な遜りで、わざわざ自分を下品にする必要はない。

 

 

幼い頃から、その身一つのジプシークイーン。

妖しくも人を魅了し、最高の舞台にまで駆け上がり、

己のアイデアは己の想像を超える領域にまで達した。

そして、流行の常に違わず、

時代の移り変わりの中で最後の消息はどうなったのかすら分からない。

一説によれば、表舞台を降りた後、故郷に帰って尼僧になったと伝えられている。

 

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阿国の墓前に手を合わせる。

誰もいなかったので、墓周りに少し生えていた雑草を抜いた。

伝説のダンサーに見すぼらしい姿は似合わない。

 

 

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真名井の清水(まないのしみず)。

出雲阿国の墓とは境内を挟んで反対側にある湧き水。

時間制限がないから、また歩き倒して辿り着く。

祭事に使われる水ということで神聖な扱いなんだけれども、

周りは普通に民家が囲んでるし、写真で見てもあまり清らかな感じではないことは

お分かりだろう。

が、柄杓や漏斗が置いてある。

ということは、この水を頂いておられる人もいるに違いない。

ならば、ここは御神徳をあやからねばと、そうっと綺麗そうな上澄みを抄って顔を洗い、

えいっと意を決しつつ、口に含む。

う、うん、飲めるね。高天原の井戸に繋がってる水なんだもの。

 

 

その他の気になる場所もぶらぶらと、

へーとか、ほーとか、遠くて同じ空の下、一人感心しつつ、歩く。

一段落ついた所で、

また一つ増えた御守コレクションをとりあえずクルマに放り込もうと、

駐車した場所へ戻ることにした。