愛。
なんて言うと、言った鼻から軽薄に成り下がって、
まるで、それまで温かく、おいしそうだったホットミルクに膜が張って、
急激においしそうに見えなくなってしまう様子に似ている、と想う。

貸してもらったおもちゃほど、面白いものはなく、
自分のものにしたいと沸き立った情熱が、
自分のものになった途端、急激に冷めてしまった記憶は、誰にでもあるだろう。

美しい恋愛妄想は、恋人がいない時ほど鮮やかで温かく、
美しい失恋妄想は、恋人がいる時ほど、鮮やかで温かい。

海外でも、情熱的な様子を「HOT」というのだから、
気持ちと温度の変化は、人間の感覚では近きものなんだろうな。
温かいものは、放って置けば冷めていくってのは、自然の摂理、なのだから。


それでも、
それでも求める気持ちは、ただ愚かなのだろうか。
冷めないものが在るんじゃないかって求めることは、ただ愚か、なのかな。
そんなもの在りはしないと何度も思い知らされた、その先に、
それでも在るんじゃないかって求めることは。

聖杯やオリハルコンを求める寓話を、例え幻であっても、人の願いだと解釈する。
僕は、したい。したかった。
「○です」って言い続けたかった。
「はい、正解は×ですね。在りもしないものを追うのは×です」って、
聞きたくもなかったし、言いたくもなかった。


自らを愚かだと思うがゆえ、それすらも受け容れてくれる誰かを求める。
「自分に相応しい相手がいないかなぁ」などと思ったことは、ない。
「あなたは僕を受け容れてくれますか?」と、誰彼となく問うてきたような気がする。
そして、「もしも受け容れてくれるのならば、僕はあなたに誓いを立てるでしょう」と。

壁の向こうへ、行きたかった。
在るはずなのに、誰も見たことがないという、月の裏側に。
生涯に一度だけで、いいから。


自ら終わりなき旅だと思い込んで、どんどん荷物を背負い込んでしまうと、
重くて重くて、いつの間にか下ばかりを向いて、砂に落ちる汗しか見えなくなる。
軽装で、スキップを踏んで、どこまで行けるか行ってみようって方が、
きっと遠くまで行けるのに。
頼もしいのは、重い荷物を背負っていても、軽々しく運べることだろうな。


今は、重い荷物は持てないな、と思う。
「月の裏側は在ると思うよ、きっとね」と嘯いて、一刹那を過ごせればいい。
ずるいね。
ずるいことが嫌いなのに、自分が一番ずるいんだ。

とりとめもない求め方。
とりとめもない戯言。
とりとめもない終わり方。