まずは、被害に遭われた方々にお見舞い申し上げる。

まだ予断の許せぬ状況が続いていること、心痛致します。



足の遅い台風は、各地に被害を及ぼした。

歯向かう事の出来ない脅威を前にして、

また、人は無力であることを痛感する。


「ここに落ちれば、僕は一溜まりもないんだ」と、

橋の上から、荒れ狂う濁流を眺めて、思う。


クルマの助手席と後部座席には、

遊び疲れて眠る、子供たち。

足元の濁流も、打ち付ける雨も、僕の気持ちも、

彼らの安らかな眠りの前には、無力だ。



台風のせいで、今年最後のプールの予定は中止になった。

動きたい盛りのチビどもと、動きたい欲求不満の僕には、

何とも残念な天候。

さすがの僕も、雨男であることが今日ばかりは忌々しかった。


とはいえ、彼らが来れば、晴れていたって嵐が来たのと変わらない。


迎えのクルマの中から、三者三様の「お父さん、あのね・・・」が、

嵐のように降り注ぎ、交通整理をするお巡りさんになった気分で、

それぞれの報告や言い分を聞き分ける。


家に着けば、「何する?」「あれやりたい!」を整理する。

最近の僕の子供たちへの第一声は、「待て待て待て!」が多い。


3人の期待に応えるのは相当骨が折れるが、

期待されないことを想像すれば、腕の見せ所だと張り切るしかない。

加えて、この日を心待ちにしている爺様婆様の姿を見ればこそ、

僕はディレクターというより、アシスタントに徹するほかはない。


爺様は、「竹細工で空気鉄砲を作らせる」と言い出した。

PSP持参でやってくる小学生に、だ。

となると僕は、「彼らの興味を引く作戦」を立てなければならない。

急遽、「狙って打ったら面白いよの的」を作成する。

何とか、クリア。


婆様は、昼ごはんを何にしようかと悩む。

来るのが分かってんのに、だ。

となると僕は、「みんなで楽しく食べられるレシピ」を考案しなくてはならない。

急遽、「有りもので作れるチャーハン」を提案し、

みんなで食べる感を演出するためにホットプレートを準備する。

何とか、クリア。


お腹を満たし、体を持て余し始めるチビども。

外は嵐なのに、だ。

となると僕は、「雨でも体を動かせる遊び」を提案しなくてはならない。

急遽、「ボーリングなら出来るよね作戦」で誘惑する。

安直だが、十分な満足感で、クリア。


姉と甥も来てくれた為、人手があって助かった。

間間には、甥が長男次男とPSPを、姉が長女とトランプや折り紙を。

個々の欲求にも対応してくれたおかげで、

帰るクルマで、彼らは安らかな眠りに落ちることとなった。



共に暮らしていた時は、

もちろん、毎日がこんな調子にはいかない。

僕自身、仕事に疲れて、子供たちに「いい加減にしろ」と怒鳴ることもあった。


けれど、スタンスは何ら変わらない。

変わらないから、今も子供たちは変わらぬ期待を寄せてくれる。

それだけは、そう信じたい。


僕に、子供たちへの愛情が足りなかった、とは誰にも言われたくない。

愛情がないから、子供を手放しても平気なのだ、とだけは。



今、外は台風が去り、嵐の後の静けさが漂っている。

廊下には、いつの間にか引っ張り出されたボールが転がっている。

「片付けろよ」って心の中で呟いて、僕はボールを拾う。