僕は、手が好きだ。

美しい手。柔らかい手。逞しい手。
華奢な手。温かい手。しわしわの手。

その人の人柄、経験、気持ちが、ダイレクトに伝わるのが手だと思っている。

小さな手。
子供と手をつなぐ時の、あの感覚。
完全なる安堵感を託されている幸福感。
健康で、無垢で、愛らしい手。

長男が生まれた時、子供を育てる自信なんて全く無かった僕は、生まれて間もない我が子を前に臆していた。
予想以上に弱々しく感じ、すぐに壊れてしまいそうで、抱き上げることを怖がり、躊躇った。

けれど、その手の愛らしさたるや。
僕は、新生児ベッドに覆い被さり、その手に触れずにはいられなかった。
出合いの握手。
僕の人差し指を、極小の手のひらに乗せた。
赤ん坊は、そっと、僕の指を握った。

赤ちゃんには、動物的な条件反射が幾つか備わっているのだそうだ。
その一つが、手のひらや足の裏を刺激すると指が縮む。すなわち、掴もうとすること。
一説には、猿としての名残であり、母親にしがみついていないと振り落とされて死んでしまうから、必死の防御本能なのだとか。

しかし、僕が彼の手のひらから感じたものは、例え条件反射だとしても、哀れみを乞うような生存への懇願では無かった。

全幅の信頼。

僕は、こいつを人差し指一本で殺せるだろう。
なのに、こいつはその指を、善にも悪にも染まり得る僕の指を、優しく握った。
今の彼にできる、これ以上も以下もない伝え方。

誰かと共に生きる意味を、絆ってものの核心を、初めて理解した気がした。
僕は、こいつを守り抜くと誓った。

親しい人と握手をする。
好きな人と手をつなぐ。
照れくさいから、なかなか素直にできないけれど、信頼のカタチだと思う。

僕は、手が好きだ。