「海をあげる」この本は、2021年本屋大賞ノンフィクション部門で大賞を受賞した上間陽子さんの作品。上間さんは琉球大学で風俗調査、沖縄階層調査、若年出産女性調査を行っている研究者であるが、研究書ではないエッセイも出しており、この本は2作目。読後感はイタリア在住が長かった須賀敦子さんを思った。瑞々しい感性と知性の深さは似ているけれど、上間さんの場合、基地と隣り合わせの環境の沖縄で住民に課せられる理不尽さとどうしようもない無力さを語る際、こちらも何とも居心地の悪さを感じてしまう。この本のラストの文章を引用する。「そして私は目を閉じる。それから、土砂が投入される前の、生き生きと生き物が宿るこっくりとした、あの青い海のことを考える。ここは海だ。青い海だ。珊瑚礁のなかで、色とりどりの魚やカメが行き交う交差点、ひょっとしたらまだどこかに人魚も潜んでいる。私は静かな部屋でこれを読んでいるあなたにあげる。私は電車でこれを読んでいるあなたにあげる。私は川のほとりでこれを読んでいるあなたにあげる。この海をひとりで抱えることははもうできない。だからあなたに、海をあげる。」書名の「海をあげる」は、「沖縄の痛みを共有して欲しい」をいう切なる、しかし逆説的な上間さんのメッセージだと私は受け取ってた。