「北朝鮮のミサイルはなぜ日本に落ちないのか」(白馬社/秋嶋亮著)を読了。
これが出版された2018年なら、
「金正恩が150以上の国々と通商関係を結んでいることを。首都平壌が資源バブルに沸き立っていることを。
そのような莫大な投資マネーが欧米やアジアや中東の各国から流れ込んでいることを。
日本とアメリカが彼らの核開発を援助したことを。世界は北朝鮮など全く脅威と見なしていないことを。
『狂人的な独裁国家』という北朝鮮像はインフォテインメント(報道番組を偽装したワイドショー)の中にしか存在しないことを。
そしてそれを知らないのは日本人だけであることを・・・。つまり我々は全くマトリックス的な二元世界の営みに在るのだ。」(P5)
といった内容を一つ一つ例をあげながら説明していく事柄について、陰謀論だの電波系だと言われ一顧だにされなかったかもしれない。
しかし、山上砲の一撃で反共団体である統一教会の教祖文鮮明が北朝鮮の金日成主席の義兄弟であり、
多額の資金(多くが日本の信者の献金)が北朝鮮に流れたこと、
韓国では「日本は植民地支配の罪滅ぼしとして韓国に貢ぎ続けなけらばならない」という教義を掲げて、
日本人を食い物にしたカルト教団と、こともあろうに保守だ愛国だを政治信条とする政治家たちがズブズブの関係であったことなどが、
明らかにされつつある今、無視することはできない書籍だろう。

「つまり北のミサイル騒動は『1984年』のプロットと同じく常態的な戦時体制によって民衆をコントロールすることが目的であるわけです。
すなわち北朝鮮危機の捏造により『例外状態と通常状態の一致』を図っているわけですね。
これの恐ろしいところは、『国家緊急権』の発動により憲法改正と全く同じことができることです。
直言するならば、北朝鮮との緩慢な戦争状態によってファッシズムが樹立できるわけです。
(中略)
そうです。兵器予算を捻出するため、消費税、所得税、住民税、固定資産税、贈与税、自動車税、国民年金保険料、
厚生年金保険料、医療費(特に高齢者医療)、介護保険料、電力料の全てが引き上げられますからね。
年金も実質廃止になるでしょう。つまり先軍体制によって給付国家(福祉国家)としての日本は完全に終わると同時に、
我々の社会的基本権(人間たるに値する暮らしを営む権利)は解体されるのです。」(P114~115)

これなどまさに今日本でリアルに起こりつつあることではないか。

「『嘔吐の時代』と言えるかもしれませんね。それはつまり正邪や善悪や左右や真偽が逆転する次元であり、
アドホック(場当たり的)な言説が先行し条理が後退する様相であり、マトモな思考者が撲滅され馬鹿どもが蔓延る世相であり、
『矛盾による支配』が公然化する世情です。すなわち吐き気の原因とは矛盾ですよ。
(中略)
そうです。毛沢東が『矛盾論』で主張したように政治の本質は矛盾なんですよ。
そして今の日本ではブレーキとアクセルを同時に踏み込むような論理矛盾によって思考を破壊することが統治の手段になっているわけです。
先ほど『矛盾は大きいほど見過ごされる』と言われましたが本当にそのとおりで、メチャクチャ過ぎることは思考力を奪うんですよ。
オーウェルの『1984年』でも矛盾語法が支配の中心ツールとして描かれているでしょ。
例えば『戦争は平和である』とか『自由は屈辱である』とか『無知は力である』とか、
そうやって相反する概念を同時受容させることによって理性を破壊するわけです。」(P202~203)

なるほど。私自身もこの時代に感じている違和感と気持ち悪さは、矛盾の増大による思考破壊だったのか。

著者は今の大人たち世代への絶望は感じているが、若い世代には希望を託し何冊かの本を出版している。
しかし、ツイッターでの情報によると、「ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ」という著者の書籍を図書館でリクエストしたところ、
図書館司書に「その本は置いてはいけない本の指定されている」と言われたそうだ。
四国の公立図書館だそうだが、どこだろうな。

読後感としては、決して堅苦しい難しい内容ではなく、やくざ映画からSF漫画まで引用されている知性のきらめきの様な本だ。
最近の著作も時間を見つけて読んでみよう。