2018年4月より顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術が顕微鏡加算保険適応となり、手術自体に12万円ほどの診療報酬がつくようになりました。その以前は保険診療で行うには開腹手術である高位結紮術の点数である2万円ほどの診療報酬しか得られませんでした。そのため以前は開腹手術に準じて全身麻酔、2泊3日入院していただいても採算性に乏しく、顕微鏡加算が得られないことから手術用顕微鏡も専用で使えないため、脳外科や整形外科の顕微鏡を空いている時に使用させてもらうなど、かなり肩見狭い思いをしながらも1000例以上の手術をこなしました。精索静脈瘤の手術でもっとも重要なポイントは2点あります。それは正しい手術適応と正確な手術手技です。これらがきちんとクリアされていれば、術後の妊娠率は極めて高く、その昔、手術を受けられた患者さん全員の追跡調査をしたところ80%近い方で妊娠が達成されてました。そうなると口コミでどんどん患者さんが増えてきますので、ある年には大晦日の前日まで1日3件手術をこなしたこともありました。しかしそこまでくると他の手術枠が無くなってしまい病院に文句を言われるようになりました。病院にとっては精索静脈瘤手術は利益が全く上がらない手術でしたから当然といえば当然です。
 そこでクリニックを立ち上げて、本来の姿であるべく外来手術に切り替えて、そのため患者さんの出費は増えましたが私費診療にさせて頂きました。この度顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術が顕微鏡加算保険適応となり、12万円の日帰り手術に切り替えるべきかどうか悩みましたが、この診療報酬では質の高い手術を継続的に提供することはできないと判断し、そのまま現在の料金での私費診療で継続することにしました。その結果意外にも、顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術を私費で希望される方は減らずして増える結果になりました。それと同時に他院での手術後にトラブルを抱えて相談に来られる患者さんも増えることになりました。
 その昔、顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術を開腹手術の診療報酬で実施するとあまりにも採算性に乏しいため、病院では疎まれる手術でした。しかしこの度診療報酬が10万円ほどアップしたため、全身麻酔2泊3日入院にすれば30万円以上の診療報酬が生まれることになり、全身麻酔で入院下で行えばいきなり利益の出る手術になりました。そのため、顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術は十分な顕微鏡手術のトレーニングをしてからしなければいけないのに、そうした準備なしに新規参入する施設や医師が増加し、そのために手術しても治らない患者が続出することになりました。
 医療の保険適応というのは一見患者さんにとってメリットがあるように思われがちですが、実のところ必ずしもそうとは限りません。技術が高くても低くても同じ診療報酬にして医療の格差を生じさせないようにするというのが国民皆保険制度の基本であるとも言えます。そのためより良い手術を行うために私財を投じて技術習得しても、何もしなくても自分に返ってくるものに違いがないと思えば、今の世の中で私財を投じてまで患者さんのためになる医療のトレーニングを受けようとする医師がどれほどいるでしょうか?そして今回の顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術は顕微鏡加算の保険適応により、病院にとって利益の出る手術となったために、不正確な手術適応と手術手技が拡大しつつあるのではないかという懸念が生じています。
 では今回の顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術保険適応で最も得をしているのはどういう方々でしょうか?それは実は体外受精を専門に実施している施設です。意外に思われるかもしれませんが、実は体外受精施設ほど顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術を日帰りでしかも保険診療でしたがっているのです。なぜでしょうか?それは高額な私費診療で多数の体外受精を実施している施設では、利益追求中心ではなく良心的な施設であるというアピールをすることができるからです。日帰りでしかも保険診療で顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術をしてもらえれば、自己負担は3万円ほどとなりますから、患者さんにすればメリットは大きいように映ります。しかし理解しなければいけないのは、体外受精と自然妊娠を目標とする精索静脈瘤手術は時に相補的に働くものの、大部分においては競合する治療法であるということです。つまり利益をより大きく生み出す体外受精をたくさんしてもらいたいと経営者が願っている施設で、日帰りで保険適応で行えば採算が取れないにもかかわらず、自然妊娠を目的とした精度の高い手術を数多くしようとするだろうかという疑問が生じます。実際に体外受精施設での顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術は30分程度で終わりますと説明され、時間短縮の粗雑な低コスト手術を実施しながら患者さんにはレベルの高い手術を低料金で提供しているのだと錯覚させているような気がします。そうした手術を受けた患者さんの多くはやはり自然妊娠しないからいずれ体外受精に進みましょうと誘導をかけられます。つまり体外受精施設での顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術を日帰りでしかも保険診療で提供するという謳い文句は患者誘引の手段としていることに他ならないように思われます。
 同じ手術なのに施設によって保険診療で入院だったり、日帰りだったり、私費診療だったり、なぜなんだと疑問に思われていた方は多いのではないでしょうか?ならその疑問に対する答えは簡単です。それらは術式名が同じであっても手術の目的と内容は決して同じではないからです。