今年最初のブログは前回予告しましたが、micro/MD-TESEで精子回収不可症例に対する救済療法に関する最新の話題です。
小生が米国留学から帰国して東北の大学病院でmicro/MD-TESEを始めた2004年頃、指導者もおらず経験不足から結果は完敗続きでした。そこでmicro/MD-TESEで精子を回収できなかった方を何とか救済できないかと論文を読みあさっていた時、目にしたのが2006年の以下の論文です。
Rescue of spermatogenesis arrest in azoospermic men after long-term gonadotropin treatment. Selman H, De Santo M, Sterzik K, Cipollone G, Aragona C, El-Danasouri I. Fertil Steril. 2006; 86: 466-8.
この論文ではTESEで精子が回収できなかった卵胞刺激ホルモン(FSH)値が正常範囲で、病理結果が分化停止の症例49例に対して、ゴナドトロピン療法というホルモン剤を投与する長期の治療を実施した結果、再度TESEで11名の方において精巣精子が見つかったという結果が報告されていました。その結果をもとに、前医療機関でのTESEで精子が見つからなくて転院されてきた方にゴナドトロピン療法を行ってからmicro/MD-TESEを行ったところ、運動精子が十分に回収でき、妊娠出産に至りました。
しかしそのときの症例では最初の前医での手術がmicro/MD-TESEではなかったため、本当にゴナドトロピン療法が効いたのか、それともTESEとmicro/MD-TESEの手術手技の違いが大きかったのか不明でした。そこでその後何例かゴナドトロピン救済療法を試してみたのですが、不成功例が続き、しばらくの間ゴナドトロピン救済療法は患者さんに勧めづらくなっていました。
その後しばらくして2012年に日本から非閉塞性無精子症に対するmicro/MD-TESE不成功例に対するゴナドトロピン救済療法が下記の論文で報告されました。
Human chorionic gonadotrophin treatment prior to microdissection testicular sperm extraction in non-obstructive azoospermia. Shiraishi K1, Ohmi C, Shimabukuro T, Matsuyama H. Hum Reprod. 2012; 27: 331-9.
それによると28例中6例において再チャレンジのmicro/MD-TESEで精巣精子が回収されたというものでした。ただこの論文を読んで問題と感じられたことは再手術で精子回収できた6例全てにおいて当初の手術の病理結果が低形成といわれる最も軽症に分類される非閉塞性無精子症であったことでした。低形成の非閉塞性無精子症ではmicro/MD-TESEで最初からほぼ100%精巣精子が回収されるはずだということが経験からあったからです。ここでも手術手技の感度(1回目と2回目の手術時の技量の差)が薬剤の効果より大きく影響したのではないかという疑いが拭いきれなかったのです。
その後、こうした報告を目にしたある患者さんでどうしてもトライしてみたいと方がおられました。その方は小生が最初のmicro/MD-TESEで両側精巣をくまなく探索した結果、全く精子形成をしている気配すらなく、しかも病理結果でセルトリオンリー症候群という最も厳しい組織型でしたので、医療者の常識からはとてもゴナドトロピン救済療法の結果は期待できないと思われました。しかしゴナドトロピン救済療法を6ヶ月実施して再度micro/MD-TESEを実施したところ、多数個所から成熟運動精子が確保され凍結保存できたのです。この方の場合、2回のmicro/MD-TESEに関わった術者、胚培養士は同じで、かつ当初の手術時点で十二分な手術経験がありましたから、間違い無くゴナドトロピン救済療法が効果あったためと確信されました。そこでよくよく当初の病理標本を見直してみたところ、セルトリオンリー症候群という病理診断ながら、極僅かに精粗細胞という幹細胞が標本中にあることがわかったのです。病理診断そのものにも病理学診断医によって温度差があることが以前より感じられておりましたが、改めてこの時は自分自身の目で標本を見なくてはいけないと思いました。
そこでその後micro/MD-TESEで精巣精子が回収されず、ゴナドトロピン救済療法の可能性と限界について同意を得られた方に治療を行ったところ、なんと4名の方で射出精子が確認されたのです。これには正直驚きました。しかもそのなかにはクラインフェルター症候群の方や最初の手術の病理結果がセルトリオンリー症候群の方も含まれておりました。それらの方の中には以前に極少数ですが射出不動精子が観察されたという実のところ真偽が不明なエピソードがある方もおられましたので、もしかしたらそうした所見は良い結果を期待しうる因子なのかもしれません。
一方でmicro/MD-TESEは採卵と顕微授精とセットにすることで不妊治療施設の収益が大きくなるため、主に顕微授精を実施する高度生殖医療施設の主導で行われています。またmicro/MD-TESEは顕微授精を必要とするため、顕微授精を同時に実施できる高度生殖医療施設で手術を行うのが望ましいように思われてきました。しかし精子凍結技術と凍結精子の輸送技術が進んだ今日、そのメリットは薄らいでいるように思います。むしろmicro/MD-TESEを強く前面に出している施設では高度生殖医療施設側の都合が優先される治療に誘導されやすいなど、内部事情を知る者から見て望ましくないと感じられる側面もあります。したがって高度生殖医療施設に気兼ねなく、男性不妊治療の主導ができる環境を整えていくことが望ましいと思います。引き続き東北地方での男性不妊治療開拓者として何としてもがんばっていきます。
小生が米国留学から帰国して東北の大学病院でmicro/MD-TESEを始めた2004年頃、指導者もおらず経験不足から結果は完敗続きでした。そこでmicro/MD-TESEで精子を回収できなかった方を何とか救済できないかと論文を読みあさっていた時、目にしたのが2006年の以下の論文です。
Rescue of spermatogenesis arrest in azoospermic men after long-term gonadotropin treatment. Selman H, De Santo M, Sterzik K, Cipollone G, Aragona C, El-Danasouri I. Fertil Steril. 2006; 86: 466-8.
この論文ではTESEで精子が回収できなかった卵胞刺激ホルモン(FSH)値が正常範囲で、病理結果が分化停止の症例49例に対して、ゴナドトロピン療法というホルモン剤を投与する長期の治療を実施した結果、再度TESEで11名の方において精巣精子が見つかったという結果が報告されていました。その結果をもとに、前医療機関でのTESEで精子が見つからなくて転院されてきた方にゴナドトロピン療法を行ってからmicro/MD-TESEを行ったところ、運動精子が十分に回収でき、妊娠出産に至りました。
しかしそのときの症例では最初の前医での手術がmicro/MD-TESEではなかったため、本当にゴナドトロピン療法が効いたのか、それともTESEとmicro/MD-TESEの手術手技の違いが大きかったのか不明でした。そこでその後何例かゴナドトロピン救済療法を試してみたのですが、不成功例が続き、しばらくの間ゴナドトロピン救済療法は患者さんに勧めづらくなっていました。
その後しばらくして2012年に日本から非閉塞性無精子症に対するmicro/MD-TESE不成功例に対するゴナドトロピン救済療法が下記の論文で報告されました。
Human chorionic gonadotrophin treatment prior to microdissection testicular sperm extraction in non-obstructive azoospermia. Shiraishi K1, Ohmi C, Shimabukuro T, Matsuyama H. Hum Reprod. 2012; 27: 331-9.
それによると28例中6例において再チャレンジのmicro/MD-TESEで精巣精子が回収されたというものでした。ただこの論文を読んで問題と感じられたことは再手術で精子回収できた6例全てにおいて当初の手術の病理結果が低形成といわれる最も軽症に分類される非閉塞性無精子症であったことでした。低形成の非閉塞性無精子症ではmicro/MD-TESEで最初からほぼ100%精巣精子が回収されるはずだということが経験からあったからです。ここでも手術手技の感度(1回目と2回目の手術時の技量の差)が薬剤の効果より大きく影響したのではないかという疑いが拭いきれなかったのです。
その後、こうした報告を目にしたある患者さんでどうしてもトライしてみたいと方がおられました。その方は小生が最初のmicro/MD-TESEで両側精巣をくまなく探索した結果、全く精子形成をしている気配すらなく、しかも病理結果でセルトリオンリー症候群という最も厳しい組織型でしたので、医療者の常識からはとてもゴナドトロピン救済療法の結果は期待できないと思われました。しかしゴナドトロピン救済療法を6ヶ月実施して再度micro/MD-TESEを実施したところ、多数個所から成熟運動精子が確保され凍結保存できたのです。この方の場合、2回のmicro/MD-TESEに関わった術者、胚培養士は同じで、かつ当初の手術時点で十二分な手術経験がありましたから、間違い無くゴナドトロピン救済療法が効果あったためと確信されました。そこでよくよく当初の病理標本を見直してみたところ、セルトリオンリー症候群という病理診断ながら、極僅かに精粗細胞という幹細胞が標本中にあることがわかったのです。病理診断そのものにも病理学診断医によって温度差があることが以前より感じられておりましたが、改めてこの時は自分自身の目で標本を見なくてはいけないと思いました。
そこでその後micro/MD-TESEで精巣精子が回収されず、ゴナドトロピン救済療法の可能性と限界について同意を得られた方に治療を行ったところ、なんと4名の方で射出精子が確認されたのです。これには正直驚きました。しかもそのなかにはクラインフェルター症候群の方や最初の手術の病理結果がセルトリオンリー症候群の方も含まれておりました。それらの方の中には以前に極少数ですが射出不動精子が観察されたという実のところ真偽が不明なエピソードがある方もおられましたので、もしかしたらそうした所見は良い結果を期待しうる因子なのかもしれません。
一方でmicro/MD-TESEは採卵と顕微授精とセットにすることで不妊治療施設の収益が大きくなるため、主に顕微授精を実施する高度生殖医療施設の主導で行われています。またmicro/MD-TESEは顕微授精を必要とするため、顕微授精を同時に実施できる高度生殖医療施設で手術を行うのが望ましいように思われてきました。しかし精子凍結技術と凍結精子の輸送技術が進んだ今日、そのメリットは薄らいでいるように思います。むしろmicro/MD-TESEを強く前面に出している施設では高度生殖医療施設側の都合が優先される治療に誘導されやすいなど、内部事情を知る者から見て望ましくないと感じられる側面もあります。したがって高度生殖医療施設に気兼ねなく、男性不妊治療の主導ができる環境を整えていくことが望ましいと思います。引き続き東北地方での男性不妊治療開拓者として何としてもがんばっていきます。