臨床泌尿器科2016年3月号誌にART 時代の男性不妊診療という特集が掲載されました。小生が執筆依頼された精索静脈瘤の記事も掲載されました。特集の巻頭言では企画者より男性因子に対する精索静脈瘤の治療の意義が改めて強調されています。
特集の記事の中で最も衝撃的であったのは、大学婦人科教授の寄稿に掲載された日本婦人科学会が集計した最新の体外受精及び顕微授精の治療成績です。実に体外受精での採卵あたりの妊娠率は8.0%、顕微授精に至っては採卵あたりの妊娠率は5.6%に過ぎませんでした。顕微授精の適応となっている対象の大半が乏精子症などの男性因子であり、日本ではほとんどの男性患者が未治療で顕微授精が行われていることより、男性因子に対して顕微授精のみで治療することがいかに非効率的であるかがわかります。男性因子の全てが精索静脈瘤ではありませんので、この結果を即逆算にあてはめることは必ずしも適切ではありませんが、男性因子に対する1人妊娠に必要な顕微授精の採卵周期は18回となり、1回あたりの治療費を50万円と設定すると1人出生にかかる不妊治療費用は900万円ということになります。この金額は米国で以前実施された調査で報告された精索静脈瘤を伴う男性因子に対する顕微授精単独による1出生あたりの医療費とあまり変わりません。
一方、高度生殖医療で知名度の高いある施設のホームページを拝見しますと、凍結胚移植あたりの妊娠率は年代別に約20%から約60%と実に高い数字が掲載されています。この数字を見れば、卵巣刺激で過排卵を起こして顕微授精すれば1、2回の採卵周期で妊娠できるのではと一般の方々は思ってしまうのではないでしょうか?この高度生殖医療施設では採卵あたりの妊娠率は公表されておりませんが、この凍結胚移植あたりの妊娠率が示す華やかな数字の裏に胚移植に至らず、涙をのんだカップルがどれだけおられたかについては容易に想像できます。
小生は2015年の1年間で精索静脈瘤に対して約170件の低位結紮術を実施いたしましたが、1件あたりの治療費用を約20万円及び自然妊娠か人工授精まで妊娠率を50%として試算すると1人妊娠にかかる不妊治療費は50万円を下まわることが予想されます。しかもこの計算では精索静脈瘤手術後の2人目や3人目の妊娠数を計算に入れていません。
顕微授精をメインに実施する高度生殖医療施設では、精索静脈瘤に対する治療を申し訳件数ほど自らの関連施設で実施しているところもありますが、顕微授精を実施することを本分とする高度生殖医療施設の利益に反する治療法が精索静脈瘤手術であり、実はできるだけ顕微授精の採卵サイクル数を増やしたいだけの集患戦略である可能性は否定できません。
したがって高度生殖医療施設の男性不妊外来で診療する非常勤の男性不妊専門医にとっては高度生殖医療施設の利益に反する治療方針を立てにくいため、こうした男性不妊外来で診療を受ける際は患者側も留意が必要です。同じ治療施設で男性も女性も治療できることはカップルのメリットが大きいように感じさせますが、一部の特殊な治療内容以外では経営的に独立しあった婦人科治療施設と泌尿器科治療施設で協力しあって治療を実施していったほうが、大半の不妊カップルにとってメリットが大きいでしょう。
もはや一般化してきた顕微授精を主体とした高度生殖医療施設数は人口あたりで日本は世界トップとなり、それでもさらに増え続けています。高度生殖医療自体がコモデティ化していることを意味しておりますが、そこで男性不妊診療は一部の高度生殖医療施設の差別化の商業的戦略に利用され始めているとも言えます。ご参考までに毎日新聞で取り上げられた増える不妊治療“子供を持つのは当たり前なのか?”をネット配信で読めますのでご覧ください。http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160114/biz/00m/010/024000c
生殖医療の現場で高度生殖医療のコモデティ化に至った背景と今後の望ましい生殖医療のあり方については改めて考察したいと思います。
特集の記事の中で最も衝撃的であったのは、大学婦人科教授の寄稿に掲載された日本婦人科学会が集計した最新の体外受精及び顕微授精の治療成績です。実に体外受精での採卵あたりの妊娠率は8.0%、顕微授精に至っては採卵あたりの妊娠率は5.6%に過ぎませんでした。顕微授精の適応となっている対象の大半が乏精子症などの男性因子であり、日本ではほとんどの男性患者が未治療で顕微授精が行われていることより、男性因子に対して顕微授精のみで治療することがいかに非効率的であるかがわかります。男性因子の全てが精索静脈瘤ではありませんので、この結果を即逆算にあてはめることは必ずしも適切ではありませんが、男性因子に対する1人妊娠に必要な顕微授精の採卵周期は18回となり、1回あたりの治療費を50万円と設定すると1人出生にかかる不妊治療費用は900万円ということになります。この金額は米国で以前実施された調査で報告された精索静脈瘤を伴う男性因子に対する顕微授精単独による1出生あたりの医療費とあまり変わりません。
一方、高度生殖医療で知名度の高いある施設のホームページを拝見しますと、凍結胚移植あたりの妊娠率は年代別に約20%から約60%と実に高い数字が掲載されています。この数字を見れば、卵巣刺激で過排卵を起こして顕微授精すれば1、2回の採卵周期で妊娠できるのではと一般の方々は思ってしまうのではないでしょうか?この高度生殖医療施設では採卵あたりの妊娠率は公表されておりませんが、この凍結胚移植あたりの妊娠率が示す華やかな数字の裏に胚移植に至らず、涙をのんだカップルがどれだけおられたかについては容易に想像できます。
小生は2015年の1年間で精索静脈瘤に対して約170件の低位結紮術を実施いたしましたが、1件あたりの治療費用を約20万円及び自然妊娠か人工授精まで妊娠率を50%として試算すると1人妊娠にかかる不妊治療費は50万円を下まわることが予想されます。しかもこの計算では精索静脈瘤手術後の2人目や3人目の妊娠数を計算に入れていません。
顕微授精をメインに実施する高度生殖医療施設では、精索静脈瘤に対する治療を申し訳件数ほど自らの関連施設で実施しているところもありますが、顕微授精を実施することを本分とする高度生殖医療施設の利益に反する治療法が精索静脈瘤手術であり、実はできるだけ顕微授精の採卵サイクル数を増やしたいだけの集患戦略である可能性は否定できません。
したがって高度生殖医療施設の男性不妊外来で診療する非常勤の男性不妊専門医にとっては高度生殖医療施設の利益に反する治療方針を立てにくいため、こうした男性不妊外来で診療を受ける際は患者側も留意が必要です。同じ治療施設で男性も女性も治療できることはカップルのメリットが大きいように感じさせますが、一部の特殊な治療内容以外では経営的に独立しあった婦人科治療施設と泌尿器科治療施設で協力しあって治療を実施していったほうが、大半の不妊カップルにとってメリットが大きいでしょう。
もはや一般化してきた顕微授精を主体とした高度生殖医療施設数は人口あたりで日本は世界トップとなり、それでもさらに増え続けています。高度生殖医療自体がコモデティ化していることを意味しておりますが、そこで男性不妊診療は一部の高度生殖医療施設の差別化の商業的戦略に利用され始めているとも言えます。ご参考までに毎日新聞で取り上げられた増える不妊治療“子供を持つのは当たり前なのか?”をネット配信で読めますのでご覧ください。http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160114/biz/00m/010/024000c
生殖医療の現場で高度生殖医療のコモデティ化に至った背景と今後の望ましい生殖医療のあり方については改めて考察したいと思います。