うぅぅぅ…
と、うめき声をあげ崩れ落ちるヒョンと
普段、大抵なことには驚かないのに
今朝はかなり慌てた感じのじぃやを置いて
俺は一目散で手入れの行き届いた庭を駆け抜けた。
さっき横切ったパティオまで戻ったところで足を止め
大きく息を吸い込み、空気が足りなくなっていた肺を満たした。
まったく。
ちょっと甘い顔するとあぁなんだから。
火照った頬を両手で包みながらため息をついた。
かなりクリーンヒットした。
大丈夫かな…
力加減をしている余裕がなかったからな。
まぁ、でも。
鋼の様に鍛えられているヒョンの身体はそうそう柔にできてない。
拳で感じたヒョンの身体の感触が生々しかった。
自然と顔がほころび足取りもゆっくりとなっていく。
グゥ…と胃が食べ物を与えろと空腹を訴えてきた。
ばぁやさん何か用意してくれてるかな…
そんなことを考えながらそのまま屋敷のへ向かった。
にしてもここはなんて広いんだ。
なかなかつかなくて息が切れてきた。
えっと…
こっちだっけかな…
広い邸内に進むべき方向を一瞬見失った。
太陽の位置を確認してみたが今一つピント来ない。
ちょっと遠回りして屋敷を目の前にした時には
うっすら汗をかくくらいだった。
リビングにつながる大きく開かれた窓が見えてホッとため息をついた。
一瞬名前を呼ばれたような気がした。
足を止め耳を澄まして周りを見回したが何も聞こえない。
空耳?ちょっと首をかしげながら前を向くと
今度は確かに名前を呼ばれた。
「キュヒョンさん!キュヒョンさん!」
じぃやの慌てた声だった。
振り返るとじぃやがぐったりとしたヒョンを支えながら
こちらに向かってきた。
「坊ちゃまが…」
そう言って俺を呼んだ。
え?
なに?
俺は慌てて駆け寄りどうしたのかと尋ねた。
じぃやが抱えていたヒョンを足元に横たえながら
「いえ…ぼっちゃまが…えっと…あぁ~その…いきなり気を失い…まし…て…」
しどろもどろの返事しかかえったこなかった。
『ヒョン!え?そんな…え?ヒョン、ヒョンっえば!』
自分でもちょっとやりすぎたと慌てて肩を掴んで体を揺らす。
「じぃやさん、あの…」
「キュヒョンさんのパンチがその…かなり効いたようで…」
「え?うそ!」
俺はじぃやの言葉に焦った。
そんなつもりじゃ…
え?え?え?
嘘だろ?!
しゃがみ込んでもう一度ヒョンの肩を揺らした。
「あ~あ…なんだよお前またやったのか?」
ふいに背後から声を掛けられた。
「え?」
びっくりして振り返ると信じられない事が起こっていた。
「お前も先生もほんっと懲りないよな。毎回毎回ほんっと感心するわ。」
そういいながら手にもったリンゴにガブリとくらいつく輩…
「へぇ?な、なんで?」
状況が呑み込めなくて一瞬ぽか~んとその輩を見つめた。
「よっ!元気そうじゃないか。
せーんせい。先生もよくやるよ。
肩…震えてるよ。」
ヒョクがヒョンの足をつま先でコンコンと突いた。
「ヒョ、ヒョク!!え?なんで???」
リンゴを持った手をひょいっと上げ歯茎を見せて笑いかけてきた
ヒョクに俺は唖然とするばかりだった。
そして、さっきまで動かなかったヒョンが俺をいきなり抱きしめた。
「え?え?え?な、なに?」
なにが起こってるのかまったくわからない俺は
そのままヒョンの胸に顔をうずめることになった。
☆
『なぁ。機嫌直せよ…』
ヒョンが話しかけてくるが無視をした。
「そうだよ。大丈夫だったんだからいいじゃんか。」
ヒョクがヒョンを援護する。
「えっと…キュヒョンさんお怒りになるのならこのじぃやを…」
三人が代わる代わる俺に話しかける。
結局、さっきのはヒョンのいたずら心でじぃやに一芝居打たせて
俺をからかっただけだった。
ヒョンはたまに子供じみたことする。
片棒を担がされたじぃやだって被害者だ。
何事もなくピンシャンしていたヒョン。
ホッとした後に湧き上がってくるのは怒りだった。
俺の機嫌を損ねるのもこの人の楽しみなんだな…
と思うとあきれてものが言えない。
無視を決め込んで料理を頬張る。
が、ヒョンはそんなことお構いなし。
身体ごとこちらを向いて俺の機嫌をうかがってる。
そして、目尻を下げなにか言わんとするその態度。
「シウォンさんは前を向かれたらどうですか?
料理がさめてしまいますよ。」
そう顔を見ずぶっきら棒に言葉を投げ
ちぎったパンを口に放り込んだ。
そんな俺のあからさまな突っぱねも
『怒ったキュヒョンも抜群にかわいいい…』
などと言って髪に触れ手の甲で俺の頬をスッと撫でおろす。
この状況でみんなの前でそれやるか?!ふつう。
俺はパシッとその腕を払いのけ
美味しそうなクロワッサンを手にとり
”はい。リョウクに怒られないうちにちゃんと食べて”と
それをヒョンの口に押し込んだ。
ヒョンはそれを飲み込み俺に向かって口を開けた。
「なに?」
つっけんどにそう返すとヒョンが俺が手に持ったピザを指さした。
”あん”と大きく口を開けるヒョン。
俺は仕方なくそれをヒョンの口に押し込んだ。
落ちそうになってヒョンが俺の手を握って支えた。
ヒョンがそれを美味しそうにそしゃくする。
手を引っ込めようすると
”ついてる”といいヒョンは反対に手を引き、
俺の指を自分の口元に持って行き
手についたソースをペロペロっと舐め始めた。
すぐ手を引っ込めればいいだけの話だが
つい…ついそのままされるがままでいた。
「おいおい、飯食いながら盛ってんじゃねーぞ!」
とヒチョル先生の声にハッ!と我に返り手を引いた。
顔から火を噴きそうだった俺と違ってヒョンは…
だーかーらー
そういううれしそうな顔、なんでするんだよ!
俺。怒ってるんだからな!
ヒョンは満足げにまたヒチョル先生とハイタッチをしてはしゃぐ。
呆れて怒ってるのがあほらしくなってきた。
はぁ…
目の前にはテーブルいっぱいの料理を堪能するみんなもいたが
慣れっこなトゥギ先生やドンへ先生たちは俺たちにお構いなしで
料理を味わっていた。
いつものメンバーがそこにはいた。
俺だけが知らなかった。
明日、この一帯のセレブたちが集まる大きなパーティーが
開催されるので、その主催者からコンシェルジュドクターとして
待機してほしいと依頼されたらしい。
この場所で前日からみんなで集まり打ち合わせをするスケジュールが
最初から組まれていたそうだ。
俺だけが知らなかった。
クソ…
なんだよ。
ヒョンもヒョンだよ。
教えてくれてればいいじゃないか。
みんなは今朝早くついたらしい。
この大きな家は玄関を中心にオーナー側とゲスト側に
スペースが分かれていた。
みんなはゲスト側の入り口と駐車スペースから入ったので
オーナー側の一番奥のベットルームにいた俺にはわからなかった。
でも気配ってものを敏感に感じ取ったのだろう。
朝早く目が覚めた原因はこれだったのかとなんとなく納得できた。
俺がいつもみたいに昼を回ってから現れたら
もっと大変なことになるところだった。
ヒチョル先生にどんないからかわれるかわからない。
恥ずかしくて同席なんてできなかったじゃないか。
リョウクがばぁやについて回って
キッチンとダイニングを行ったり来たりしている。
なんだよ。
もうなじんでるのか?
この前紹介したいって話したばかりなのに…
うれしそうで楽しそうなばぁやさんの顔をみてそう感じた。
「おい、キュヒョン。お前…ダダ漏れだな。相変わらず」
口の悪いヒチョル先生が”シウォンにどんだけやられたんだ”と
相変わらず下品なことを言ってきて俺の神経を逆なでする。
「えぇ…おかげさまで。」
半ばやけくそでそう返事すると”うひょ~”と一声上げて
またまたヒョンとハイタッチをして二人ではしゃぐので余計イラッとする。
こういう時本来なら止めてくれるはずの
トゥギ先生とドンへ先生は2人ともそんな俺たちを
みながらうれしそうに微笑むだけで反対に楽しそうだった。
まったく相変わらずで本当に自由な人たち。
そしてやっぱり厄介な人たち。
でもやっぱりそんなみんなが好きだった。
信頼おける仲間ってありがたいと思った。
特に俺たちの事、それぞれの事を大っぴらに話せるのは
やっぱりこのメンバーたちの前でしかない。
それをつくづく感じないわけではない。
でも…
「ヒチョル先生。そのグラスに酒でもはいってるんですか?随分饒舌ですね。」
そう言って一呼吸おき
「先生はダダ漏れてないようですけど、ドンへ先生とうまくいってないんですか?」
俺はサラダをつつきながら精一杯の皮肉を言ってやった。
一瞬その場が氷ついたかのように静かになった。
ん?と思って顔を上げてみるとみんなが俺を見ていた。
え?
俺もみんなを見返した。
「くっそー!!おい!ドンへや!お前もっと頑張れよ!!」
ヒチョル先生がそう言ってドンへ先生にナプキンを投げつけた。
ドンへ先生が”え~頑張ってるよ俺”と胸を張る。
そして”シウォンには敵わなよ。誰も…”そういって投げ返してへへへ~と笑った。
一斉にみんなが笑いだす。
ヒチョル先生が一番ウケてるんだけど…
悔し紛れな俺は横に座るヒョンの顔を両手で挟み、
顔を寄せその唇にチュッとキスをして突き放し気味に手をパッと離した。
無精ひげがジョリッと俺の肌をくすぐった。
面食らったヒョンがポカーンと口をあげながらイスから崩れ落ちた。
一瞬あっけにとられたみんなが一斉に笑った。
ふん!
ヒョンの弱点なんてわかりきってるんだって話だ。
俺はしてやったり顔で口の端で笑ってやった。
そしてまたばぁやとリョウクの料理に手を伸ばした。
cont
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ウォンキュデーに向けてスピンオフに
走ってしまったので、こちらは
とてもとても久しぶりになってしまいました。
スジュ本体はウネが入隊してしまったし
シウォンさんももうすぐ…
でもここのみんなは相変わらずです。
相変わらずで大好きな面々です。
少しでも好きでいてくれたら
うれしいです。
お話し中のシウォン先生とギュ看護師のイメージは…
無精ひげモード。
ペコリ(o_ _)o))