「ねぇ、ギュギュ。なにはいってんの?」
「え?」
ヒチョル先生、トゥギ先生、ドンヘ先生、イェソン先生そしてヒョンたちは
別にいつもと変わらない様子で待機していた。
時折ヒョンが俺の方に視線を向け、
その目元に憂いを漂わせる。
俺はその視線を受け止める。
そんなことを繰り返しているところに声をかけられたので
一瞬何のことかわからなかった。
「そのリュック。大事そうに抱えてるけど…何が入ってるの?」
リョウクが言っているのが今腕の中にあるリュックの事だとわかって
無意識にしっかりと抱え直した。
「あ~うん。まぁ、いわゆる最終兵器的な?」
「え?何それ。意味わかんない。」
「うん。だよね。そうだよね…」
俺は自分でもなんか笑っちゃった。
「それにしてもなんだかドキドキするね。」
「え?」
「だって、これからすごい数のプレスの前に
この俺たちも出るんだよ?」
「うん…そうだね。」
「お前ら何言ってんだよ。こんな楽しいことなかなかないぞ!」
「ヒョクは単純だからそんなお気楽でいられるんだよ。
普通そうはいかないでしょ?ねぇ、ギュギュ」
「なんだよそれ。まるで俺がアホみたいじゃないか。」
ヒョクはそう言いながらしきりに腕を振り回す。
ヒョクは緊張すると動作がオーバーになっていく。
「ヒョクが一番緊張してるじゃんねぇ~ギュギュ。」
リョウクが朗らかに笑う。
その声に緊張がほぐれる。
フッと視線を上げるとまたヒョンがこちらを見ていた。
俺は一瞬目を合わせたが口角をちょっとあげ、
そのまままた視線を落とした。
「なぁ、お前と先生どうした?」
「え?」
「なんかあった?」
「ん…別に…」
「先生、まだダニエルさんとのこと疑ってるの?」
「………」
「え?ギュギュそうなの?」
「ううん。そういうのじゃなくて…」
「あっ。また見てる。先生、気も漫ろで…」
「まぁ…ね…」
俺はヒョンから視線をそらさずリュックをより強く抱えた。
こうやってただ座ってるだけでも正直つらい。
身体中がギシギシ言ってるし、本当に辛い。
でも、このプレス会見が終わるまではとにかく頑張らないと。
それに、その後どうしてもやらなくちゃならないことが…
俺の決心は堅かった。
水が飲みたくなって壁際に並べたあるペットボトルを
取りに行こうと立ち上がった。
「あっ、危ない!」
ヒョクが腕をつかんで支えてくれた。
脚に力が入らず思わずよろけた。
「おい、ほんとどうした?大丈夫か?」
「ん、ちょっとよろけただけ。大丈夫だよ。」
「大丈夫、大丈夫ってどう見てもそう思えないぞ。」
「ほんと大丈夫だから…あ、ありがとう。」
俺とヒョクで問答をしているとリョウクがペットボトルを差し出してくれた。
「ギュギュ…」
リョウクの鋭い視線が俺を射抜く。
リョウクは感がものすごくよくて何でもお見通し的なところがあって
結局口を割ってしまうんだから、もういいかな…
「いや、実は…ヒョンがね…」
「さぁ、みんな出番だ。行くぞ。」
そう説明を始めたところでシンドンさんが呼びに来た。
”おっ!”
”よっしゃ”
”ふぅ…”
みんなが会場に向かって歩き始めた。
目の前に立つ人影に思わず顔を上げると
ヒョンが目の前にいて、腕をつかんで俺を支え
腰に手を回し自分の方へ引き寄せる。
「ヒョン。大丈夫。大丈夫だから…」
俺はやんわりとその手を押し返した。
『頼むから…頼むからキュヒョン…』
俺の腰を支えるヒョンの手に力が入る。
そしてヒョンがものすごく悲しい顔をして俺をみた。
あぁ…これからプレスの前にでるのにそんな顔して…
こんな顔で人前に出すわけにはいかない。
「ヒョン。終わったら。終わったらお願い…それまでが頑張るから。」
そういいながらにっこりと笑ってその頬にキスをした。
「だからみんなに飛び切りの笑顔見せてあげて。」
ちょっと驚いて目を見開くヒョンにそういうと俺を促した。
そしてフラッシュとライトの中へヒョンを押し出した。
そして…
俺のヒョンはだれよりも抜群にかっこよかった。
☆
「あぁ~疲れた…」
トゥギ先生がそう言って椅子にドカッと座りこんだ。
「おい。あいつなんであんなに…あんななんだよ!
あんな風に言われたらもう何にもいえねぇじゃないか!」
ヒチョル先生が口ではそういいながら満足そうに笑った。
「おれ。前々からわかってはいたけどやっぱりユジンって…
お前もほんっと大変だよな。んでもってそっちも。」
「あぁ…ほんとに…」
俺はクツクツ笑って俺の側にぴったり張り付いて離れない
ヒョンを見上げた。
本当にユジンはすごかった。
記者たちのスルドイ質問や意地の悪い質問にも動じることなく
むしろ反対にやり込めていった。
先生たちも俺達も質問されれば笑顔で答えた。
みなヒチョル先生の美しさに見とれ、
トゥギ先生の実直さに触れ
ドンヘ先生のイケメンぶりに心奪われ、
イェソン先生が誰も安心感を覚える落ち着きを見せた。
特にダニエルさんとヒョンが、なんていうのかなぁ…
ユーモアとセンスに溢れて…
最後にはそこにいる誰もが納得のいく
素晴らしいプレス発表となった。
そこにいる人たちみんなが笑いと称賛の声を上げた。
プレス発表の最後にコンシェルジュ部門の室長となった
シンドンさんがとても心温まるコメントを残し幕を下ろした。
みんなもまだ興奮冷めやらぬという様子で
お互いを讃えあっていた。
そんな姿に俺もなんだかうれしくなる。
『キュヒョン。もう帰ろう。熱…あるだろ?」
そんな充実感などお構いなしでヒョンが声をかけてきた。
「え?そうかな…」
実はだんだんと身体がいうことを利かなくなってきているのを感じていた。
ヒョンに隠し事なんてできないんだなぁ…と思ったら顔がニヤケた。
でもまだ帰るわけにはいかない。
だって…まだやらなきゃなんないことがあるんだ。
「大丈夫。大丈夫だよヒョン。」
『いや、でも…』
そういってヒョンが肩を撫でる。
その腕が心地よく目を閉じてしばらく浸った。
不意にその手に力が入って肩をつかまれた。
不思議に思いヒョンの顔を見た。
ヒョンの鋭い視線は俺のその後ろに注がれていた。
「キュヒョンくん。ちょっといいかなぁ…」
それがダニエルさんだってわかるのに時間はかからなかった。
「えぇ。大丈夫ですよ…」
そういってダニエルさんの方へ向き直ると目の前に
ヒョンの背中が立ちはだかった。
…え?
『キュヒョンに…何の用なんだ?』
目の前のヒョンの背中が緊張するのがわかる。
「ヒョン。ねぇ…」
「シウォン。俺はキュヒョンくんに用が…」
ダニエルさんとヒョンが睨みあったまま動きを止めた。
みんなも場の雰囲気が変わったのがわかったのか
その様子を黙って見つめる。
「ねぇ…二人とも…」
頭がボ~として胃がムカムカする…熱…上がってるな多分。
『ダニエル。その前に俺の話を…』
「話?」
『あぁ。さっきのプレス会見の中の話だけど…』
「う~ん。さっきの?」
『あぁ…。』
「…なんだ?」
ダニエルさんがその顔に一瞬困惑の色をみせたが
すぐにいつものダニエルさんに戻った。
ヒョンの全面に出す攻撃い的な態度と
ダニエルさんのそれをいなそうとする態度が
お互いの距離を広げていた。
ダニエルさんが双眸を細めたままヒョンを見つめる。
ヒョンもその視線を受け止め跳ね返す。
でも…
さっきのプレス会見の時、本当によくわかった。
俺には結局お互いを呼び合ってるようにしか見えない。
ヒョンをダニエルさんに返すことはできない。
ヒョンはあくまでも俺のもの。
でも。
二人の力になりたい。
二人が…いや、ヒョンがまたダニエルさんという存在に
素直に甘えてほしい。
考えるより体が先に動いた。
俺はびっくりしている二人をよそに、
二人の手をがっちりとつかみ、出口に向かった。
「あっ、おいキュヒョン!なにやってんだよ。」
ヒョクの声が部屋の中で響いた。
「リョング!俺のそのリュック持ってついてきて!」
俺はリョウクにそういうと
しっかりつかんだ手を引っ張りながら
ヒョンとダニエルさんをその部屋から連れ出した。
「え?待って!ちょっと待ってよ!!」
「おい!キュヒョンどこ行くんだよ!」
俺の突然の行動にみんなが慌てて後に続いた。
俺は二人を病院の中庭に連れてきて手を放した。
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間、空いて、しまいました
(;´▽`A``
読んでいただけたら嬉しいです
ペコリ(o_ _)o))